橋口五葉・装幀/夏目漱石・著 寸珍『吾輩ハ猫デアル』 1911年初版/1919年57版 大倉書店 個人蔵
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(ライター、構成作家:川岸 徹)

印刷技術の革新が進み、出版界が興隆した大正時代(1912-1926)。西洋の芸術と日本の伝統が融合した斬新なグラフィックデザインを紹介する展覧会「大正イマジュリィの世界 デザインとイラストレーションの青春 1900s―1930s」がSOMPO美術館で開幕した。

短くも濃密な大正時代

 日本史において、約15年と最も短い時代区分である「大正時代」。明治と昭和に挟まれ、なんとなく影が薄い印象もあるが、実際は歴史的な出来事が相次ぎ、社会や文化に大きな変化をもたらした「濃密な時代」であった。

 1914年(大正3)、第一次世界大戦が勃発。日本は軍需品の輸出により好景気を迎えるが、同時に物価の上昇をもたらし、庶民の生活は苦しくなっていく。1918年(大正7)には富山県でコメの価格急騰を原因とする「米騒動」が発生。騒動は全国に広がり、各地で米問屋の打ち壊しや焼き討ちが相次いだ。

 米騒動と前後して、民主主義を求める「大正デモクラシー」の動きが活発化。普通選挙や男女平等、部落差別解放、自由教育の獲得などを目指し、ストライキや社会運動が盛んに行われるようになる。1920年(大正9)には日本で最初のメーデーが開催。女性の社会進出も進み、バスガールや電話交換手は女性に人気の職種になった。1923年(大正12)には関東大震災が発生。東京、横浜をはじめ、関東の各都市は甚大な被害を受けるが、近代的な都市開発を進める契機にもなった。

故・山田俊幸氏の収集品330点を公開

 こうした激動の時代に、新しい文化も花開く。大正は印刷技術が飛躍的な進歩を遂げた時代。雑誌を中心とした“グラフ”が流行し、巷には斬新なグラフィックデザインやイラストレーションがあふれた。

 そんな大正時代の視覚表現を紹介する試みが「大正イマジュリィの世界 デザインとイラストレーションの青春 1900s―1930s」。展覧会タイトルにある「イマジュリィ」とはイメージ図像を表すフランス語で、装幀、挿絵、ポスター、絵はがき、広告、漫画など大衆的な印刷物・版画を指す総称として用いられる。

 本展の監修を務めたのは、元・帝塚山学院大学教授で、文学と美術、音楽などが混じりあう近代の書物と刷物を愛した故・山田俊幸氏(※山田氏は本展準備中に逝去。ご冥福をお祈りいたします)。展覧会では山田氏の収集品から大正時代を中心に、1900年(明治33)から1933年(昭和8)までの約330点を紹介する。