(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年7月9日付)
「偉大なアメリカ」の破壊に成功しているトランプ大統領(7月11日、写真:ロイター/アフロ)
ときには物事の全体像を見る必要がある。米国は2026年7月4日に独立250年を迎える。その独立の宣言には次のような文言が記されていた。
「我々は以下の真実を自明のものと考える。すなわち、すべての人は平等に造られており、その創造主より生命、自由、および幸福追求という一定の不可譲の権利を付与されているという真実である」
これらの理想は完全な形では実現されなかった。独立後には内戦や公民権運動が待ち構えていた。
しかし、アメリカ合衆国(米国)の誕生は非常に重要な出来事となった。
世界を変えてきた偉大な国家
米国には、紀元前31年のアクティウムの海戦で崩壊した共和政ローマ以来の真に強力な共和政体になる力があった。
もし米国の軍事力がなかったら、欧州は間違いなくドイツかロシアの独裁政権に征服されていただろう。
もし米国というお手本がなかったら、民主主義的な資本主義が世界中に広まることもなかった。
この世界はもっと貧しくなっていただろうし、専制政治に伴うありとあらゆる災厄に悩まされていたはずだ。
筆者が2016年のコラムで論じたように、ドナルド・トランプの政界進出によってこれらがすべて危うくなった。
危険はその当時よりもかなり差し迫ったものになっている。
トランプは2020年の大統領選挙の結果を覆そうとしたが、政治家生命を失うには至らず、2024年の選挙で再び勝利を収めた。
今はまさに野放し状態だ。トランプ政権のエネルギーは世界を大きく変えつつある。
法の支配と政府への攻撃、独裁制の兆候も
米国内の様子から順に見ていこう。
まず、法の支配が攻撃にさらされている。
トランプの娘婿ジャレッド・クシュナーやジョー・バイデンの息子ハンター・バイデンの弁護人をかつて務めたアビー・ローウェルは、ドナルド・トランプは米国の民主主義を危機的状況に追いやっていると警告している。
法律事務所を敵視した大統領令を発令したり、自分への忠誠心はあるが能力不足な人物を要職に就けたりしていることがそれに当たる。
本紙フィナンシャル・タイムズのエドワード・ルースが指摘しているように、最も不気味なのは移民関税執行局(ICE)が持つ権限と資源の拡大だ。今の活動ぶりはまさに秘密警察そっくりだ。
それと密接に関係しているのが政府への攻撃だ。
イーロン・マスクのいわゆる政府効率化省(DOGE)はペテンだった。その狙いは効率化ではなく、従属させることだった。公務員の独立性を破壊することにあったのだ。
その過程では国際開発局(USAID)の医療プログラムを筆頭に、貴重な活動も数多く破壊された。その代償は甚大なものになるだろう。
トランプによる緊急事態宣言と大統領令の乱発も、法の支配に対する攻撃だ。
大統領の任期が始まって数カ月しか経たないのに、発せられた大統領令はすでに168件に上っている。近年の大統領のなかではダントツに多い。
トランプは命令を通じて統治している。これは独裁制の兆候の一つだ。