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(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年7月5・6日付)

写真は日本庭園(JürgenによるPixabayからの画像)

 人工知能(AI)の能力がますます向上するなか、安定した仕事など果たしてあるのだろうか。

「世界で最も安全な仕事は恐らく庭師だろうと私はほぼ確信した」

 本紙フィナンシャル・タイムズのチーフ・エコノミクス・コメンテーター、マーティン・ウルフは先日こう打ち明けた。

 確かに正しいように思えた。コンピューターにも、とにかくできないことがある。

 その翌朝、本紙を開いたら「AIが育てた庭」という記事が掲載されており、AIで自動化された点滴水やりシステム、害虫発見器、レーザー光線による案山子システム、太陽電池で発電して動く草むしりロボットなどが紹介されていた。まいった。

 レーザー光線による鳥獣撃退システムや草むしりロボットが人間の庭師の仕事をどの程度脅かすことになるのか、確かなことが言えるわけではない。

 だが、その見通しについて考えていくと、仕事と作業の違いが思い浮かぶ。仕事のほとんどは、互いに結びついた作業の束だ。

 庭師は芝刈り・草むしりから病害虫被害の診断、屋外空間の設計、さらには――これが最も難しいが――気難しい依頼主とのコミュニケーションに至るまで、すべてをこなさなければならない。

 こうした作業のほとんどは、それぞれに専用のAIシステムを利用すれば片付けやすくなるかもしれないが、それでも庭師という仕事はなくなりそうにない。

 ただ、その仕事のあり方が変わるだけだ。

 問題は、新しいAIアプリケーションの一つひとつが、人間の仕事のあり方をどのように変えていくか、そしてそうやって再構成された仕事を人間が気に入るかどうか、だ。

ラッダイト運動までさかのぼる問い

 生成AIは新しいかもしれないが、こうした問いはそうではない。その歴史は古く、1800年代初めのラッダイト運動にまでさかのぼる。

 織物工場に機械が導入され、高いスキルを持った熟練工が担当していた最も難しい作業が機械で行われるようになり、熟練工が低スキル・低賃金の労働者に取って代わられたことから起きた機械打ち壊し運動のことだ。

 では、こうした昔からある問いの答えはどんなものなのか。それはテクノロジーと仕事の内容次第で変わる。

 これについては、2つの対照的な前例から教訓を引き出すことができる。

 一つは表計算ソフトウエア。もう一つは、倉庫内で働く作業員が装着するヘッドセット(「ジェニファー・ユニット」など)だ。

 表計算ソフトは1979年に発売され、会計業務担当の事務員がそれまでやっていた作業をあっというまに、かつ完璧にこなした。

 だが、会計担当の事務員は様々なシナリオやリスクのモデル化といった、それまでよりも戦略的かつ創造的な問題に取り組むようになった。

 創造的な会計士を望まない人などいないだろう。

 片やジェニファー・ユニットは注文された商品を倉庫の棚から集めて回る「ピッキング」担当者が装着するマイク付きのヘッドフォンだ。

 作業がどこまで進んだかをチェックし、次に何をするかを耳元でささやいてくる。

 ピッキングは体力的にきつい仕事であり、ただでさえぼうっとしてしまうが、このヘッドセットはそこから体力的な負担ではなく認知的な負担を完全に取り除く。

 表計算ソフトとはまさに正反対だ。

 表計算ソフトは、内容が多種多様で高度なスキルを必要とする仕事から最も冗長な部分を取り除いたからだ。

 従って、この事例からは次のような教訓が得られる。

 AIは退屈な仕事をより退屈にすることもあれば、面白い仕事をさらに面白くすることもあるということだ。