中国製EVは「車輪のついたコンピューター」

 習近平国家主席に強い忠誠を示す重慶市トップの袁家軍氏と、重慶市に本社を構える大手自動車メーカー、長安汽車のことを指すとみられる。袁氏は中国初の有人宇宙船打ち上げの責任者を務めた宇宙閥の一人で「宇宙の青年将校」と呼ばれている。このエピソードは習主席本人がEV嫌いのトランプ氏を尻目にEVによる世界進出を企んでいることを強くうかがわせる。

 1980年代にマーガレット・サッチャー英首相(当時)が日産、ホンダ、トヨタを誘致したのと同じことだとクーパー=コールズ氏は指摘する。中国のEVメーカーが英国に上陸すれば、EVへの対応が遅れる日系企業は苦しい立場に追い込まれる。SMMTの最新統計によると、6月に英国で販売された車の10台に1台は中国製だった。

 クーパー=コールズ氏によれば、キア・スターマー英首相は今秋、訪中する予定だ。英国首相の訪中は2018年のテリーザ・メイ首相以来7年ぶり。首相訪中の地ならしにトニー・ブレア元英首相の右腕だった英国家安全保障顧問ジョナサン・パウエル氏が訪中する。

「中国に追加関税を課さない現政府の方針は正しい選択だ」とクーパー=コールズ氏は言い切った。しかしトランプ政権により国家安全保障を口実にファーウェイ排除と同じ圧力がBYDなど中国製EVにかかる可能性は否定できない。

 リチャード・ディアラブ元英秘密情報部(MI6)長官は中国製EVを「車輪のついたコンピューター」と呼び「いつでも遠隔操作で再プログラムできる技術でロンドンを無力化できる」と警戒する。英国防省は基地周辺で中国製バッテリーやセンサーを含むEVの駐車を禁止している。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。