写真:Faustostock/イメージマート
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チョコレートを美味しく感じる最大の理由は、カカオバターの融点が人の体温より少しだけ低いことで生まれる「くちどけ」にあるという。温度によって引き出される、異なる食感や風味によって、チョコレートは人々を魅了するのだ。(JBpress編集部)

(市川歩美、ジャーナリスト)

※本稿は『味わい深くてためになる 教養としてのチョコレート』(市川歩美著、三笠書房)より一部抜粋・再編集したものです。

「私、チョコレートが大好きなんです」そんな声を、これまでに何度も何度も、耳にしてきました。

 そのたびに私は「ほんとに、美味しくて幸せになれますよね」なんて答えているのですが、ここであらためて考えてみることにしましょう。

 チョコレートは、どうして美味しいのでしょうか?

カカオバターの融点と体温の絶妙な関係性

 チョコレートを口に入れたときのことを思い出してみてください。指でつまんだときは形をとどめています。でも口に入れると、自然にトロッと溶けていきますよね。

 つまり、チョコレートは、人間の体温でちょうど溶けて液体になってくれる食べ物なのです。

 これは当たり前のようですが、決して当たり前ではありません。例えば、ピーマンが口に入れた途端に溶けて、液体になったらびっくりしますよね? 口に入れるだけで自然と溶けてくれる食べ物は、意外と多くありません。

 人がチョコレートを「美味しい」と感じる理由として、私はまず「体温との相性のよさ」をあげたいのです。

 チョコレートが口の中で自然と溶けてくれる理由は、カカオ豆に含まれる油脂「カカオバター」の融点(溶ける温度)が、人の体温よりも少し低いからです。

 人の平均体温は約36.8度ですが、カカオバターの融点は約33.8度です。そのため、口に入れると、何もしなくても固体から液体に変わっていってくれるのです。

 常温では固形でいてくれて、私たちの口に入るとトロッと液体になってくれる。ちょうどよくて、素晴らしい性質だと思いませんか?

「カカオやチョコレートは、人間の性質に合わせて設計されたのでは!?」なんて、私はときどき感じています。