(英エコノミスト誌 2025年6月28日号)

中国のブランドが国内外で顧客を獲得している。
「ラブブ」の人形は簡単には手に入らない。製造元の泡泡瑪特国際集団(ポップマート)が上海に構える巨大な旗艦店でさえ、大勢の顧客が1週間以上待たなければならないと告げられている。
しかめ面をした妖精のような生き物の人形は、中身の見えない「ブラインドボックス」に入っており、買い手は何が入っているのだろうドキドキしながら代金を払う。
1箱20ドルという低価格だが、6月10日に開かれたオークションでは、あるレアな人形に15万ドルもの高値がついた。
手に入れようとしているのは中国の子供たちばかりではない。
元サッカー選手のデービッド・ベッカムやポップスターのリアーナをはじめとする有名人もラブブが好きなことを公表している。
ラブブのブームのおかげで、ポップマートの株価は年初来で180%上昇している。同社はこのところ人気が急上昇している中国消費ブランドの高成長グループに名を連ねる存在だ。
中国の買い物客は何十年もの間、化粧品やファッション、ホテル・レストランなどの最新トレンドを外国に求めてきた。
それが今では国内資本の高級品メーカーや最高級化粧品ブランド、ミルクティー専門店などに群がっている。
さらに、そうしたブランドの多くは外国でも熱心なファンを獲得している。西側諸国のブランドは心配するべきだ。
価格に敏感になった消費者にアピール
このタイミングで中国の消費財がブームになることは、いささか奇妙ではある。経済成長が鈍化したせいで家計消費が弱くなっているからだ。
だが、中国の買い物客にのしかかるその重圧が、国内ブランドを活気づける一つの要因になっている。
消費者が価格に敏感になったことで、低価格・低料金ながらまずまずの品質を備えた国内ブランドが繁盛しているのだ。
中国のコーヒー好きの多くは、庫迪珈琲(コッティコーヒー)や瑞幸珈琲(ラッキンコーヒー)といった国内資本のチェーン店に行けば、米国資本のスターバックスと同じくらいおいしいコーヒーを半分程度の費用で味わえることに気づいた。
中国の高級宝飾品メーカーである老鋪黄金(ラオプーゴールド)は、エレガントなブレスレットやイヤリングを米国資本のティファニーよりも安く販売して成功を収めている。
ハンドバッグ・ブランドの山下有松(ソングモント)は国内各地の空港で大々的な広告キャンペーンを展開し、ソングモントの2倍以上の価格で売られることが多い外国のライバル会社の向こうを張った。
英HSBC銀行のリナ・ヤン氏はポップマートのラブブについて、高品質かつ「感情に訴える」製品で節約志向の消費者を狙ったことが成功の一因だと述べている。