(英エコノミスト誌電子版 2025年6月24日付)

容赦ない12日間の末に得た利益を確定するためには、イスラエルは獰猛な戦争機構のスイッチを切らねばならない。
中東の戦争には、ドナルド・トランプ米大統領でさえ変えることのできないルールがある。
ひとたび停戦が発表されると、どちらの側も相手にもう一発食らわせようとする。停戦期間に入った後、こっそり一斉射撃を試みる。
イランとイスラエルの12日間に及ぶ戦争は終わったとトランプ氏が発表した後、両国は10時間もの間、報復攻撃を行っていた。
24日の朝に目を覚ました頃には大統領も我慢の限界に達し、ホワイトハウスの芝生の上で「どっちの国も自分が何をやっているのか全然分かっていない」と言い切った。
そこでイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に電話をし、攻撃をやめるよう戒告した。イスラエルのジェット機は引き返した。
強大な宿敵イランに対する勝利
いくらたしなめられようと、停戦が維持されるのであれば、ネタニヤフ氏にとってはこれが勝利の瞬間となる。
イスラエルは中東地域で軍事的優位性を獲得した。ひょっとしたら、1967年の戦争直後以降に見られたピークをすべて上回っているかもしれないほどの優位性だ。
何しろ、人口1000万人の国が中東の大部分の制空権を得ている。
それにパレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマス、レバノンの親イラン武装勢力ヒズボラ、イエメンの親イラン武装組織フーシ、そして最大の敵であるイランとそれぞれ戦い、すべてノックアウトした。
しかし、イランの核開発プログラムは「破壊された」のではなく「打撃を受けた」だけかもしれない。
ここでイスラエルは極めて重要な選択に直面する。
ステロイドを効かせた超好戦的な今のビジョンを維持するのか、それとも終わりのない戦争から安定へと抜け出す道を探るのか、という選択だ。
また、つい数週間前にはイスラエルのとんでもないお荷物だと多くの国民が考えていたネタニヤフ氏がリーダーの座にとどまるべきなのか、それとも自己最大の権力を振るうに至った時点で有権者に追い出される戦時首相なのかという決断も下さなければならない。
ネタニヤフ氏は数十年も前から、イランの核開発プログラムがもたらす「存亡に関わる脅威」について警鐘を鳴らしてきた。
このプログラムも弾道ミサイル開発の取り組みも完全に破壊されたわけではないが、数カ月いや恐らく数年は後退させられただろう。
イスラエルは攻撃面に加えて防衛面でも軍事的な成果を上げている。
イランがイスラエルに向けて発射した500発あまりのミサイルのうち、家屋密集地域に着弾したのは6%に過ぎず、死者数も28人と予想を大幅に下回った。
イランは何十年にもわたってミサイルとドローンの戦力を拡張し、代理勢力やロシアに供給してきた。この結果は屈辱であり、近隣のアラブ諸国は密かに喜んでいる。