(英エコノミスト誌 2025年6月21日号)

イスラエルに抗議する、金曜礼拝を終えたテヘラン市民(6月20日、写真:ロイター/アフロ)

トランプ大統領はテヘラン市民に「直ちに避難せよ」と呼びかけている。

 イランのイスラム革命体制は腐敗、堕落、破綻しており、市民から嫌われているとよく言われる。

 では、体制は近いうちに崩壊するのだろうか。

 イスラエルは衝撃と畏怖作戦を容赦なく続けている。6月16日には「テヘランの制空権を完全に掌握した」と述べた。

 翌17日には米国のドナルド・トランプ大統領がテヘランの人々に「直ちに避難せよ」と呼びかけ、市外に向かう道路ではすでに数日前から車が数珠つなぎになっている。街の商店はシャッターを下ろした。

 ソーシャルメディアには、バーベキューにされた肉の絵文字を使って母国の軍幹部らの暗殺を祝うイラン市民も現れた。

 こうした屈辱は革命体制の軍事戦略の失敗を浮き彫りにし、これを機に反乱やクーデターが起きて混乱が生じ、国家が生まれ変わるのを望む向きもある。

 しかし、侵略者には屈せずに抵抗するのがこの国の基本的な対応だ。

 それに、戦いが長期化して一般市民の犠牲が増えれば、非常に愛国心の強い国では世論が盛り上がる可能性がある。

 イランでそうなれば、革命体制の延命や核爆弾開発努力の強化に至ることもあるだろう。

支配者と被支配者の間に広がる大きな溝

 イランの内側の脆さは、以前にも攻撃を招く要因になったことがある。

 革命後の混乱の最中にあった45年ほど前には、イラクのサダム・フセインがイラン・イラク戦争を始めた。戦いは8年に及び、数十万人が犠牲になった。

 この戦争ではイランの革命体制は弱くなるどころか、逆に指導力を強め、体制の政治的な武装組織であるイスラム革命防衛隊(IRGC)の支配力も強まった。

 イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はイラン国民の決起を望んでおり、「イランの人々が旗を中心に団結する時が来た」と呼びかけている。

 イスラエルが展開する「ライジング・ライオン」作戦という名前は、革命前のイランの国王「シャー」の旗と、その中央に配されたペルシャのシンボルを思い出させる。

 ロンドンにある衛星放送局「イラン・インターナショナル」はネタニヤフ氏の主張をイラン人の一般家庭に伝えた。

 イランの支配者と被支配者の間にある溝は、シャーが国民の手によってその座を追われた1979年のイスラム革命時と同じくらい大きく広がっている。

 目もくらむような攻撃をイスラエルから受けたイラン指導部はぐらつき、力量のなさを露呈した。

 警告を受けていたにもかかわらず、備えを怠っていた。ある証券会社の社員はこれについて、まるで「張り子のネコだ」と冷笑した。

 イスラエルではミサイル攻撃を受けるとサイレンが鳴り響き、シェルターに入るよう指示される。

 イランではそうした警報は発令されない。

 また、イスラエルがイランの司令官を就寝中に暗殺することに成功したことは、イラン上層部の内通者の協力なしには実現し得ないことであり、忠誠心のなさを浮き彫りにした。

 縁者びいきと猜疑心は体制の中核に及んでいる。

 この状況を、当時軍人だったレザー・パーレビのクーデターによって倒されたガージャール朝の弱体化の気配になぞらえる向きもある。

 パーレビが新たな王朝を興し、イランを近代化に向かわせたのはちょうど1世紀前のことだ。