(英エコノミスト誌 2025年6月7日号)

上下両院の合同会議で施政方針演説するトランプ大統領(3月4日、写真:AP/アフロ)

しかし、トランプ大統領はその治療法がお気に召さないだろう。

 世界経済のバランス調整はドナルド・トランプ米大統領が掲げる決定的な大義だ。

 中国は生産を減らして消費を増やすべきだと大統領は思っている。

 一方、米国は再工業化を進めることによって生産を増やすべきだと考えている。

 この方程式には最後の論理的なステップがある。米国は消費も減らすべきだというものだ。

 MAGA(米国を再び偉大に)運動の主張の帳尻を合わせようとすれば、そのような禁欲的な結論に至ることは避けられない。これについては当のトランプ政権でさえ認めている。

 スコット・ベッセント財務長官は「消費の削減」を求めているし、トランプ氏は、この貿易戦争の結果として子供たちが持つ「人形は30個ではなく2個」になるかもしれないという余計な飾りがついた表現をしている。

 J・D・バンス副大統領も「米国製造業の雇用を1人分増やすことの価値は安物のトースターが100万個あっても及ばない」と言った。

過剰消費と貿易の関係

 米国は消費しすぎているとの見方は数十年前から強まっている。左派系の人々は米国の消費文化を非難する。

 2000年代の世界金融危機に襲われる前の数年間には、米国人は低い長期金利をむさぼり食っていると嘆くエコノミストがいた。

 2010年には学者出身の共和党員のグレン・ハバード氏がピーター・ナバロという無名の民主党員とタッグを組み、「米国の貯蓄率引き上げを国民経済総合通商政策の一部にすべきだ」と論陣を張った。

 そのナバロ氏は後に共和党に転じ、今ではトランプ政権で通商・製造業担当上級顧問を務めている。

 過剰消費と貿易がどのようにリンクしているかを知りたいなら、国全体が収入を上回る消費をしたらどうなるかを考えてみるといい。

 そう、そういう国は外国からカネを借りなければならなくなる。

 そのような資金の流れは、トランプ氏が忌み嫌う貿易赤字とコインの裏表の関係にある。

 たとえて言うなら、貨物船が米国に到着して積み荷を降ろすと、今度は米国債やS&P500株価指数構成銘柄の株式を満載して出港するようなものだ。

 トランプ氏は貿易赤字の縮小を望んでいる。ということは、このカネの流れも緩やかにならなければいけない。

 ところがトランプ氏は、米国が投資ブームで湧くことも望んでいる。

 こうしたことの帳尻をすべて合わせるには、米国がもっと貯蓄して投資の原資をひねり出すしかない。言い換えれば、消費を削らねばならないのだ。