(英エコノミスト誌 2025年6月14日号)

鮮緑色の「産油国」がテクノロジー・製薬業界のブームに乗っている――今のところは。
6月6日、欧州に思いがけない朗報が飛び込んできた。経済成長率が事前予想の2倍に達していたのだ。
確かに判明した第1四半期の域内総生産(GDP)成長率は前期比0.6%と小幅ではあるが、欧州は最近、手に入るものは何でも受け取る。
果たしてこれは、何年も惰眠をむさぼっているドイツやフランスが復活する兆しなのだろうか。
その通りだ、とは言い切れない。内訳を細かく見ていくと、1つだけ突出した数字があることが分かる。
アイルランドのGDPが9.7%も増えているのだ。
人口が欧州連合(EU)全体の100分の1程度しかない国がEU全体の成長率の半分以上をたたき出した計算だ。
経済統計に普段から目を通している人でなければ、アイルランドは誰も気づかないうちに石油をたまたま掘り当てたのかと推測するかもしれない。
テック・医薬品企業が低税率求めて殺到
真実はこの推測からそれほど離れていない。
アイルランドはここ数年、同国の労働力とは無関係な理由でGDPを増やしている。
実は、予想外の富が石油からではなく、世界的なタックス・シフティング(税の移転)から得られている。
世界中で事業を展開している巨大な多国籍企業が、各地で得た利益を欧州の片隅にある雨の多いこの土地でまとめて計上すると、税制上有利なことに気づいたのだ。
アップルやマイクロソフトといった大手テクノロジー企業は知的財産権――世界で最も価値ある資産の一角を占める財産――をアイルランドの子会社に移転し、その子会社がアイルランドと米国以外の税率が比較的高い国々から知的財産権使用料を徴収する仕組みを作っている。
製薬会社も同様なトリックを使っているが、こちらはいわゆるブロックバスター薬をアイルランドで製造もしている(もっとも米国企業が米国で開発した薬である可能性が高い)。
アイルランド生まれの作家ジェイムズ・ジョイス並みのシュールな創造性を備えた会計士なら、ロイヤルティやライセンス使用料の網を通じて世界中の利益をアイルランドに魔法のごとく集約できる。
なぜアイルランドなのか。それは、この国の法人税率が年12.5%という世界屈指の低率だからだ。
大規模な利益移転はアイルランドに3つのインパクトをもたらしている。まず、GDP統計が歪む。
元の数字と見分けがつかなくなるほど歪むことから、アイルランド政府当局は独自の指標で成長率を計測するようになった。
それよりもはるかにリアルなのは、外国企業からアイルランド財務省に流れ込む法人税だ。
その額は年間200億ユーロ(約3兆3300億円)で、今も増え続けている。
サウジアラビアのレベルには及ばないかもしれないが、公的な監視機関であるアイルランド財政諮問会議(IFAC)では、学校や病院の費用をカバーするのに十分な規模だと話している。
外国企業はこれに加え、アイルランド国内で――首都ダブリン市内のハイテクなオフィスや、市街地から遠く離れた製薬工場などで――従業員も雇っている。
その数は全労働力の11%に相当し、所得税収の3分の1をもたらしている。