AIについての方向性を年次開発者会議で発表するグーグルの開発責任者(5月20日、写真:AP/アフロ)

 米グーグルが本格導入したAI検索機能が、米国のニュースサイトを揺るがしている。

 米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が報じたところによると、ユーザーが検索ページ内で直接回答を得られるようになった結果、ニュースサイトへのアクセス(トラフィック)が激減。

 長年、検索流入を事業の柱としてきた報道各社は、「ポスト検索時代」を見据えた事業モデルの転換を迫られている。

検索経由のサイト訪問半減、収益機会を喪失

 ことの発端は、グーグルが検索結果の最上部にAIによる要約文を表示する「AIオーバービュー(AIによる概要)」や、チャット形式で質問に答える「AIモード」を導入したことだ。

 これにより、ユーザーは青いリンクをクリックしてニュースサイトを訪れることなく、必要な情報を得られるようになったと指摘されている。

 この変化がもたらした影響は大きいようだ。

 イスラエルのウエブアクセス分析企業、シミラーウエブ(Similarweb)の調査によると、米ハフポストや米紙ワシントン・ポストでは、オーガニック検索(広告ではない純粋な検索)からのトラフィックがこの3年で半減した。

 米ビジネスインサイダーも55%減少し、5月には全従業員の約2割に当たる人員削減に踏み切った。

 同社のバーバラ・ペンCEO(最高経営責任者)は「我々のコントロールが及ばない極端なトラフィック減少に耐えるため」と説明する。

 米誌アトランティックのニコラス・トンプソンCEOは社内会議で「グーグルからのトラフィックはいずれゼロに近づくという前提で事業を進化させる必要がある」と強い危機感を表明。

 ワシントン・ポストのウィリアム・ルイスCEOも「クリック不要の検索が急速に発展することは、ジャーナリズムへの深刻な脅威だ」と述べ、新たな収益源の確保を急ぐ考えを示した。

「読者と直接」、活路探る各社

 報道各社はグーグル依存からの脱却を目指し、読者と直接的な関係を構築する戦略へと舵を切り始めた。

 これまで検索経由で訪れていた「一見客」に頼るのではなく、自社のブランド価値を高め、熱心なファンを増やすことで事業基盤を安定させる狙いだ。

 具体的には、ニュースレターの配信強化、高機能なスマートフォンアプリの開発、読者参加型のライブイベント開催などに力を注いでいる。

 米ドットダッシュ・メレディスは、かつてトラフィックの6割をグーグル検索に依存していたが、現在は約3分の1まで低下。

 一方で、レシピ保存機能のような独自サービスを強化し、全体のトラフィック成長を維持している。

 同社のニール・ボーゲルCEOは「AIはとどめの一撃(the last straw)だ。我々は前進しなければならない」と語る。