台湾総統府で記者会見する魏哲家TSMC会長兼CEO(3月6日、写真:ロイター/アフロ)
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 半導体ファウンドリー(受託製造)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は2025年6月上旬に年次株主総会を開き、経営トップの魏哲家氏が、米国の対中関税の影響やAI向け半導体の需要、米国への大型投資などについて見解を表明した。

 魏氏は、「関税の直接的な影響は限定的」とし、「AI需要は引き続き旺盛で、過去最高の収益を見込む」と自信を示した。

 一方で、米国投資の収益性確保や労働力不足、台湾ドル高など、経営上の課題も浮き彫りとなった。

関税の影響は限定的、AI需要は供給上回る

 TSMC董事長(会長)兼CEO(最高経営責任者)の魏氏は、米国の関税について「輸入業者が負担するものであり、輸出業者であるTSMCに直接的な影響はない」との認識を示した。

 ただし、関税が世界経済の減速や物価上昇を引き起こせば、最終製品の需要が減退し、間接的にTSMCの事業に影響が及ぶ可能性も示唆した。

 AIに対する需要については「非常に強く、一貫して供給を上回っている」と強調。

 AI・HPC(高性能コンピューティング)向け半導体に牽引され、2025年の売上高と利益は過去最高になるとの強気な見通しをあらためて示した。

 米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によれば、TSMCの主要顧客である米アップルや米エヌビディア(NVIDIA)は、トランプ米政権の貿易政策を巡る不確実性の中で、サプライチェーン(供給網)の逼迫に直面している。

 しかし、魏氏は「顧客の行動に大きな変化は見られない」とし、状況は数カ月以内に明確になる可能性に言及した。

米国投資、1000億ドル計画の困難さと収益性

 TSMCは、米南西部アリゾナ州で総額1650億米ドル(約24兆円)規模の投資計画を進めている。これには1000億米ドルの追加投資も含まれる。

 この追加投資は、2025年3月にトランプ大統領も臨席した会見で発表された。

 魏氏は今回この追加投資について、トランプ大統領に「5年以内の完了は非常に困難」と伝えたことを明らかにした。大統領からは「最善を尽くしてほしい」との返答があったという。

 この米国投資に関しては、TSMCが米商務省と関税について協議していることも明らかになった。

 背景には、米国サプライヤーから購入する一部設備がアジア製であり、関税によってアリゾナでの生産コストが増加するとの懸念がある。

 TSMCはこの懸念を米商務省に伝えたという。魏氏は「商務省は協議に応じる姿勢だが、結論までどれだけ時間がかかるかは不透明だ」と述べた。

 同氏は、アリゾナ州で経験豊富な労働力が不足しており、生産能力増強の課題となっていることも指摘した。

 TSMCの米国投資を巡っては、急速な生産規模の拡大が同社の高い利益率を低下させるのではないかと懸念されている。

 アリゾナ工場がTSMC全体の収益性を押し下げるリスクや、米政府からの圧力に対する警戒感も、依然として投資家の間でくすぶっている。