原作とアニメの愛溢れるマリアージュ

 本作の大ヒットは、アニメと原作が蜜月の関係にあったことで興ったものである。前述の通り、原作の絵はクセが強く、また荒削りな画風である。原画の帳尻を合わせて原作の絵を作画に起こすのは極めて困難だったはずだ。しかし、ufotableはこれを比類のないレベルで昇華しているのである。神作画と呼ぶべき出来栄えである。

 見どころとしては背景とキャラ動画の強いコントラストを挙げたい。襖絵から葉の一枚、畳の目に至るまで、背景は驚愕の繊細さで描かれている。これと対照的に動画は原作の絵を最低限の色数と色面で再現しているのである。

 この「密度の高い背景とフラットな動画」によって、原作の持つユーモラスでありながらも不穏な世界観が表現されている(これは水木しげる作品に類似性がある)。これにCGアクション、カメラワーク、音響が相まって最高のアニメ作品となっているのである。

 元来、アニメーションの「Animate」には「命を吹き込む・活気づける」という意味があるが、『鬼滅』のアニメは真にこれに相応しい作品なのである。

 また、アニメ版の「声優玉手箱」とも呼ぶべきコンテンツも見どころの一つだろう。アフレコも、作品に命を吹き込む重要な要素だ。本作における有名声優陣たちの贅沢すぎる共演は、作品に大きな価値を与えている。「あのキャラクターは誰が演るのだろう」とワクワクして最新話を待ち望んだ原作ファンも多かったはずだ。

 特に山寺宏一(本作への出演を熱望していた)が登場した時の反響は大きく、エンドロールでその名を見て初めて彼だと分かった瞬間、SNSは沸きに沸いた。還暦を超えた大ベテランのキャリアのなかでも、最も気合の入った演技だったはずである。

 そして最後に強調しておきたいのは、本作に携わる人々が一枚岩となって練り上げる「愛」の強さである。作画、演出、脚本、構成、音楽、声優、そしてファン。『鬼滅』に携わる人々は例外なく惜しみ無い愛をこの作品に捧げている。あらゆる幸福なマリアージュが交錯し、本作がメガヒットとなったのは、ひとえにこの「愛」に拠るところが大きい。

 劇場版映画が公開され、原作が人気絶頂で完結したのは、折しもコロナ禍の真っ只中であった。制作側の戦略もあったとは思うが、当時の鬱屈を打倒するべく、強い共時性を持ったムーブメントになったことは事実だ。『鬼滅』はあの時の我々に確かなカタルシスを与えたのである。

 本年7月、いよいよ劇場公開版での最終回へのカウントダウンが始まる。どんな映像でこの歴史的名作を締めくくってくれるのか、期待は昂まるばかりである。

(編集協力:春燈社 小西眞由美)