ガザの食料配給所付近でパレスチナ市民が銃撃される事態が相次いでいる(写真:ロイター/アフロ)
イスラエルの完全封鎖により200万人以上が飢餓の危機にあるガザ地区で、食料の配給所付近で多数のパレスチナ市民が銃撃される事態が相次いでいる。この配給所を運営しているのは、イスラエルと米国が支援しているガザ人道財団(GHF)。当初から人道支援活動に必要な中立性や独立性に欠くと批判されている組織だ。配給所をガザ南部に設置することで意図的に住民を強制移住させようとしているのではとの疑いも持たれている。ガザで何が起きているのか。
(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)
6月初め欧米メディアやSNSなどで広く拡散された、ある少年の姿がある。パレスチナ自治区・ガザ地区で、母親の亡骸に寄り添い泣き叫ぶ少年だ。
「お母さんと離れることなんてできないよ」と号泣するこの少年は、わずか12歳だという。
一昨年のハマスによる襲撃以来イスラエル軍による激しい攻撃が続くガザ地区だが、この女性が命を落としたのは戦闘に巻き込まれたからではない。3月から続いたイスラエルによる完全封鎖で食料が枯渇し、女性は空腹に泣く5歳の娘やこの少年ら家族のため、歩いて遠くの配給所を訪れようとしていた。
一部報道によれば、女性や家族は8時間もの間徒歩での移動を余儀なくされた。しかし女性は、渇望していた食料を目前に銃殺された。
アルジャジーラなど複数の報道機関によれば、この女性のようにわずかな食料を求める人たちが配給所近くで5月末以来毎日のように銃撃されている。AP通信は10日、死者の数は163人、負傷者は1495人と報じた。
人道支援目的で設置されたはずの配給所で、なぜ食料を求める人たちが銃殺される事態に陥っているのか。
イスラエルによるガザ地区への完全封鎖は、同地区の人口200万以上もの人たちを飢餓の危機に晒している。国連など国際社会は、イスラエルが飢餓を戦争の武器にしているとして猛批判してきた。
ネタニヤフ政権の言い分としては、国連など人道支援団体による市民用の食料をハマスが略奪し、利益を得ているなどとしている。しかし確固たる証拠を示した訳ではなく、国連もイスラエルによる主張には証拠がほとんどないと反論している。
こうした中でイスラエルは完全封鎖への批判をかわし、ハマスに物資を渡らせないようにと独自の民間人道支援団体を稼働させ始めた。イスラエルと米国が支援する「ガザ人道財団(GHF)」だ。
5月26日に稼働し始めたGHFだが、国連や経験豊富な他の人道支援団体はこれに賛同も協力もしていない。GHFはイスラエル主導によるものとみなされており、人道支援活動の根幹にある中立性や独立性などを著しく欠くと指摘されている。
加えて、GHFは武装した米国の民間警備会社を使い、援助物資の配給拠点に物流と警備を提供させている。米ワシントン・ポスト紙は、人道支援団体などが当初から、銃と食料支援を混在させることで民間人が危険に晒されると警告してきたことを伝えた。また、国連などは多数の紛争地や災害地などで、武器を用いずに食料を提供してきた実績を有しているとも報じている。
同紙はまた、GHFの設立に関わったとされる複数の匿名の人物らが、配給所をガザ地区南部に集中させることでイスラエル軍が意図的にガザの住民を南部に移動させ、強制移住させようとしているのではないかとの懸念を示したと伝えている。同紙はこのことが、戦争犯罪に当たる可能性も指摘している。