「ティール組織」提唱者のプログラムを日本に
身近な暮らしの中で、気づき、行動する個人たち。こうした輪の広がりは可視化しにくいが、反響が数値となって表れているケースもある。
環境NGOグリーンピース・ジャパンの高田久代さんは2023年夏、「The Week」という1週間のオンラインプログラムに参加した。同じメンバーで3回集まり、特別に作られた映像を視聴して、環境問題と自分たちのつながりを語り合うプログラムだ。参加したのは英語版で、場を同じくした参加者5、6人とは初対面だったが、アットホームな本音トークが最高に楽しかったという。
「The Week」(日本語版)をオンライン開催したときの様子(緑の枠内にいるのが高田さん)(写真:グリーンピース・ジャパン提供)
高田さんが振り返る。
「気候変動や廃棄プラスチックの問題を取り上げる場合、説教臭くなったり、難しい勉強になったりしがち。気候変動は、人権にも森林・海・農業にもつながっているのに、私自身、環境団体で働きながら、うまく伝えられなかった。本当は、一つのつながった現象なんだという理解が進まない、というジレンマを感じていました」
ところが、The Weekでは、「1時間の映像を初対面の人と見てしゃべる」を3回繰り返すことで、これらの課題が解消したという。
このプログラムを企画し、映像内でホストとして参加者に語り掛けるのは、フレデリック・ラルーさんとパートナーのヘレンさんだ。フレデリックさんは「ティール組織論」という組織モデル概念の提唱者として、世界にファンがいるビジネス界の著名人だ。この2人が、生活者として感じた危機感や社会の現実、生活を変えようとしたときのつまずきなどを、ジョークを交えたり、参加者に寄り添ったりしながら率直に語る。
「The Week」の公式サイト。右上で笑顔を見せるのはフレデリックさんとヘレンさん。(画像:公式サイトより)
プログラムの公式サイトによると、現在では11の言語に翻訳され、世界で7000以上のグループが実施。参加者は5万5000人を超える。この実績が示すのは、参加者が後に開催側に回り、そこで参加した人がまた開催側に回っていくという小さな循環の連鎖だ。
例えば、オランダ・アムステルダムで開かれているプログラムの主催者も、以前は1人の参加者に過ぎなかった女性。今では定期的に都心で開催していて、社会人が出勤前にコーヒー片手に参加しているという。
高田さんらも「The Weekを日本の人たちにも届けたい」と考え、本部の了解を得て日本語吹き替え版を完成させた。そして、2024年に日本語版のプログラムを開始。これまでに延べ約300人が参加した。
「The Weekに参加したら、みんな『ああ、そうかぁ』って、まずはできるところからやろうという気持ちになる。そうした行動は自分の身の回りから始まると思うんです」
温室効果ガス削減に向けた生活様式の変容は、なかなか難しい。「できるところからやろう」という気持ちにどう火をつけるか。火をともした後に、どこまで行動の選択肢を提示できるか。子どもも大人も海外の人も、知恵を絞っている。
益田 美樹(ますだ・みき)
ジャーナリスト。英国カーディフ大学大学院修士課程修了(ジャーナリズム・スタディーズ)。元読売新聞社会部記者。著書に『日本語教師になるには』『チャイルド・デス・レビュー: 子どもの命を守る「死亡検証」実現に挑む』(共著)など。調査報道グループ「フロントラインプレス」所属。







