もう少し「農耕民族的」でもよいのでは? 

 話がやや脱線してしまいましたが、「百年目」の旦那が説いた教訓は、一億総転売ヤー時代に対するアンチテーゼとして示唆的ともいえないでしょうか。消費者は生産者や販売者との信頼関係があってこそ商品を購入し、企業は従業員との信頼関係があってこそ事業を継続できます。Switch 2もお米も、作った人、運ぶ人、売る人、そして楽しみ、食べる人の信頼関係があってはじめて、皆が笑顔になれるのではないでしょうか。

 現代社会は、あまりにも「狩猟民族的」価値観で動いているように見えます。すぐに手に入るもの、すぐに利益になるものを追い求め、短期的な成果を過度に重視する。しかし、落語界や農業、そして日本の会社が持っていた「じっくり、手間と時間をかけて育てる」という「農耕民族的」価値観をもう少し取り戻す時期に来ているのではないでしょうか。

 資本主義の本質は「安く買って高く売る」、いわば「転売」なのだから、転売ヤーの何が悪い、という意見もあるでしょう。でも、落語の『百年目』が示すように、「世の中は回り持ち」というのも、また一つの真理であり、誰もが相手あってこその存在です。それは、持続可能な社会を築く上で不可欠な視点であると同時に、人間らしい豊かさを取り戻すための第一歩となるはずです。

 ということで、落語を聴きましょう。

立川談慶(たてかわ・だんけい) 落語家。立川流真打ち。
1965年、長野県上田市生まれ。慶應義塾大学経済学部でマルクス経済学を専攻。卒業後、株式会社ワコールで3年間の勤務を経て、1991年に立川談志18番目の弟子として入門。前座名は「立川ワコール」。二つ目昇進を機に2000年、「立川談慶」を命名。2005年、真打ちに昇進。著書に『教養としての落語』(サンマーク出版)、『落語で資本論 世知辛い資本主義社会のいなし方』、『安政五年、江戸パンデミック。〜江戸っ子流コロナ撃退法』(エムオン・エンタテインメント)、『狂気の気づかい: 伝説の落語家・立川談志に最も怒られた弟子が教わった大切なこと』(東洋経済新報社)など多数の“本書く派”落語家にして、ベンチプレスで100㎏を挙上する怪力。