昭和の少年たちが夢中で読んだプロ野球漫画 

 長嶋さんの影響というか、いわゆる一つの大きな功績として、少年向け漫画雑誌にプロ野球を舞台にした野球漫画が登場するようになったことがあります。

 漫画の主人公はほとんどの場合、巨人に入団するというのがお決まりで、そこには主人公をやさしく見守る存在として必ず長嶋さんが登場、子供たちは漫画の中の長嶋さんの似顔絵にも好感を持って接していたものでした。

 私が小学2年生に進級する直前の昭和34年3月に『少年サンデー』が創刊されますが、表紙はユニフォーム姿の長嶋さんとひそひそと長嶋さんに話しかけるモデルの少年でした。すでに前年の活躍でプロ2年目にして長嶋さんはプロ野球を代表する顔、少年たちの「憧れのヒーロー」となっていました。

 そのとき、創刊号から連載されていたのが『スポーツマン金太郎』(作・寺田ヒロオ=手塚治虫が住んでいたトキワ荘の寮長みたいな存在)というプロ野球の世界を舞台にした野球漫画です。 

 言葉を話す熊とともに「おとぎ村」からやってきた小さな子供が巨人に入団し打って投げて大活躍する物語で、長嶋さんをはじめ当時の水原監督、川上コーチなどが登場、似顔絵もそれらしく描かれていて私のお気に入りでした。

 その後、いわゆる野球漫画が全盛になっていくのも、長嶋さんの活躍とシンクロしています。1960年代に人気を誇った野球漫画『ちかいの魔球』『黒い秘密兵器』『ミラクルA』『巨人の星』等、主人公は皆、読売巨人軍に入団して活躍する物語になっていますが、これもすべて長嶋さんの人気から派生した作品たちといっても過言ではないでしょう。

 そのほか、「ナガシマくん」といういわゆる一つのユーモア漫画(1959年、雑誌『少年』に連載)もあって、作者のわちさんぺいが描く長嶋さんと同姓同名のドジな小学生・ナガシマくんは、誰からも好かれる好人物に描かれていました。

 忘れてはいけないのが、長嶋さんの人気は歌謡界にも影響を及ぼしていたことです。前述の「ナガシマくん」と同時期、1959年1月、長嶋さんと親交のあった1学年上の石原裕次郎が『男の友情 背番号・3』をレコーディング、初期の裕ちゃんの歌をほとんど手掛けている大高ひさをが作詞し、歌詞には「男、長嶋」とか「シゲ」といった名前が挿入されています。今でも喜寿以上の高齢男性がカラオケで歌うのを聞いたことがあるかもしれません。

 入団2年目にして漫画に登場したり、いわゆる歌謡曲となって芸能界の大スターに歌われてしまうところからも長嶋さんの幅広い人気が窺われます。