在韓米軍の「戦略的柔軟性」要求の高まり
在韓米軍のホームページによると、その任務を「(北朝鮮からの)侵略を抑止し、必要に応じて大韓民国(韓国)を防衛し、北東アジアの安定を維持する」とし、「休戦協定を維持」し、大韓民国の安定と繁栄のための条件を整えるとしている。
米国は、1953年の朝鮮戦争休戦に伴って調印された米韓相互防衛条約によって韓国の自衛、特に北朝鮮からの防衛を支援することを約束している。現在、約2万8500人の米軍が韓国に駐留している。
朝鮮戦争はまた、国連の集団安全保障が機能し、米国が主導した国連軍として参戦し、休戦協定によって武力紛争を終結させた。
しかし、朝鮮戦争は和平に至っておらず、休戦中にすぎないことから、現在も国連軍が維持され、同司令官を在韓米軍司令官が兼務している。
つまり、米国は、米韓相互防衛条約に基づく軍事同盟と国連軍としての役割を果たすために韓国に強力にコミットしている。
しかし、ロシアのウクライナ侵略を境に国際安全保障環境は激変した。
米国と中国・ロシアとの「大国間競争」「戦略的競争」が激化し、「ならず者国家」と名指しされるイランおよび北朝鮮が両大国と同調するグローバルな対立構図の出現である。
その環境の下、米国は世界各地でリスクを負い、世界大戦の危機が議論される中で「中国による台湾占拠の抑止と米国本土防衛の強化を優先する」との国防戦略を選択し米軍の方針転換に舵を切ったのである。
(JBpress「中国の台湾侵攻は絶対に許さない、トランプ政権が事実上の決意表明」(2025.4.29)参照)
そのため、前掲のブランソン在韓米軍司令官は5月28日、韓米研究所(ICAS)が主催したオンラインセミナーに出席し、「西海(黄海)では中国が北方限界線(NLL)周辺を侵犯しており、東海(日本海)ではロシアが防空識別圏(KADIZ)を侵犯している」と指摘した。
そして、「戦略的柔軟性は皆が望むものだ」「『力による平和』を保障するには、時には別の場所に進出する必要がある」と述べ、在韓米軍の戦略的柔軟性の必要を説き、「(朝鮮半島周辺の)地図を見なければ、なぜ戦略的柔軟性が絶対に必要なのか理解できない」と強調した。
現在検討されている在韓米軍の役割および規模調整の議論は、大きくは米軍の世界的再編計画の一環であり、その主題は、あくまで中国に対する戦略的優位性の確保である。
そのためのグローバルな米軍の兵力再配置であり、地域の情勢に基づいた兵力の増強・削減が伴う。
東アジアでは、これまで北朝鮮の抑止任務に固定されてきた在韓米軍に、対中抑止などインド太平洋地域内で多目的に活用できる戦略的柔軟性を保持させ、あるいは一部の部隊は他地域に転用し役割に応じて組織改編するなど、情勢の激変に対応した最適態勢の構築を目指しており、それは戦略的に至当な判断と見て差し支えなかろう。