
米国がゴールデン・ドーム構築計画発表
米国のドナルド・トランプ大統領は5月20日、中国やロシアなどの脅威から米国を守るための大規模な次世代ミサイル防衛システムを構築する計画を発表し、同プロジェクトの主任プログラムマネージャーに米宇宙軍副作戦司令官のマイケル・グートライン大将を任命したと述べた。
同大統領は、「ゴールデン・ドーム」と命名されたこのシステムが「我が国を守ってくれる」と表明し、カナダが同プロジェクトへの参画を希望しており、米国はカナダを支援するとの考えを示した。
また、同防衛システムの開発費を約1750億ドルとし、「すべてを米国で製造する」と述べ、自身の任期終了までに運用開始されるとの見通しを示した。5月21日にロイターなどが伝えた。
ゴールデン・ドームは、トランプ大統領が、イスラエルの「アイアン・ドーム」に似たミサイル防衛システムを米国にも導入すべきだと主張したことに始まった。
トランプ大統領は今年1月、「アメリカのアイアン・ドーム(Iron Dome for America)」と題する大統領令(EO)を発令し、2月にこのプロジェクトを「アメリカのゴールデン・ドーム(Golden Dome for America)」と改称した。
ちなみに、イスラエルのいわゆるアイアン・ドームは、ロケット弾、迫撃砲などを迎撃するアイアン・ドームや指向性エネルギー兵器のアイアン・ビーム、ロケット弾などに加えて短距離弾道ミサイルまでを迎撃するダビデスリング、および弾道ミサイルを迎撃する「アロー2・3」などから構成される多層防空システムである。
アイアン・ドームは昨年4月、イランの最高司令官を殺害したイスラエルの空爆への報復として、イランがイスラエルに向けて約300発のミサイルとドローンを発射した際に、イスラエル防衛の成功に大きな役割を果たしたことで、一躍その名声を高めた。
では、米国が目指すゴールデン・ドームは、どのようなミサイル防衛システムを描いているのであろうか。
ゴールデン・ドームに関する大統領令の概要
米国では、現在の本土防空体制が、北朝鮮のような国からの不法な長距離ミサイルを撃墜することを目的とした地上配備型ミッドコース防衛(GMD)システムに一部依存している。
そのため、ロシアや中国のような強力な弾道ミサイルや極超音速ミサイルなどを有する国からの大規模な攻撃があった場合、その有効性は限定的なものとなるとの認識がある。
また、米国は中国の急激な核増強を踏まえ、まもなくロシアと中国という2大核保有国が存在する世界に突入し、複数の核競争国に直面するとともに、ロシア、中国、イラン、北朝鮮からの脅威、そしてこれらの国間の「協働関係(transactional relationships)」の深化がもたらす「新たな抑止力の課題」に直面しているとの危機感がある。
そのような背景の下、2025年1月に発令された大統領令では、「米本土に対するいかなる外国の経空攻撃も抑止し、自国民と重要なインフラを守る」ことが米国の政策であると宣言した。
この政策には、「ピア(peer:対等国)、ニアピア(near-peer:近対等国)、ローグ(rogue adversaries:ならず者国家)の敵からの弾道ミサイル、極超音速ミサイル、先進巡航ミサイル、その他の次世代経空攻撃に対する防御」が含まれると明記されている。
ピアはロシア、ニアピアは中国、ローグは北朝鮮とイラクを指しているのは明らかだ。
これまでのオバマ政権、第1次トランプ政権、バイデン政権では、国土ミサイル防衛政策は大陸間弾道ミサイルの脅威に重点を置いてきた。
北朝鮮やイランなどのならず者国家からの攻撃に対する防衛能力の開発を強調しつつ、ロシアや中国などの対等国および近対等国からの攻撃を抑止するために米国の核戦力・核戦略に依存してきた。
しかしながら、ウクライナ戦争やイスラエル・ハマス戦争を通じ、ミサイルやドローンが支配的な地位を占め、核抑止の信頼性低下が指摘される中、大規模かつ最新のミサイル防衛システムの必要性が高まったの改めて指摘するまでもない。
そのため、大統領令では、国防長官に次のような行動をとるように指示した。
・「次世代ミサイル・シールド」の「リファレンス・アーキテクチャ(reference architecture)」「能力ベースの要件」および実施計画
•「この指令に資金を提供する計画」を行政管理予算局に提出
•「国土に対する戦略ミサイルの脅威に関する最新の評価」
• 「対価値攻撃(countervalue attack)に対して段階的に防御するための優先順位付けされた一連の場所」(対価値という用語は、都市や民間人の人口密集地など、核兵器の非軍事的目標を指すことが多い)
大統領令は、あくまで米国本土に焦点を当てているが、国防長官に対し戦域ミサイル防衛能力を見直すことも指示した。
バイデン政権下で2022年に発表された直近の「ミサイル防衛見直し(MDR)」では、国土ミサイル防衛を「50州、全米領土、コロンビア特別区の防衛」と定義している。
戦域ミサイル防衛の見直しは、ミサイル防衛に関する国際協力の強化と、米国の前方展開部隊および同盟国の領土、軍隊、および国民の防衛強化の機会を特定することを目的としている。
つまり、ゴールデン・ドームは、米国本土防衛を最優先としつつ、前方展開する米軍やその同盟国のミサイル防衛も考慮した大規模かつ新世代のミサイル防衛システムを構想しているのである。
しかし、ゴールデン・ドームの実現には、早速、様々な困難や課題が指摘されている。