
米国防長官、「将軍を減らし、GIを増やす」
ピート・ヘグセス米国防長官は5月5日、「将官・旗将官削減(General/Flag Officer Reductions)」と題したメモを国防省内に示し、米軍の4つ星将官(Four-Star General)の20%削減と将官(General Officer)全体の10%削減を指示した。
その中には、陸軍州兵と空軍州兵の将官を20%削減することも含まれている。
なお、米軍では、陸軍、空軍、海兵隊、そして宇宙軍の最上級将校は将官(General)と呼ばれ、海軍の最上級将校は旗将官(Flag Officer)と呼ばれている。
以下、将官・旗将官(General/Flag Officer)を、総称して「GFO」と表現する。
現今の国際情勢は、米国と中国およびロシアとの「大国間競争」「戦略的競争」が激化し、「ならず者国家」と名指しされるイランおよび北朝鮮が両大国と同調する構図の下、世界各地でリスクが高まり、世界大戦への発展さえ議論される「危機の時代」の只中にある。
このような戦後最大の安全保障・防衛の試練を迎え、トランプ政権が米軍の将官・旗将官(GFO)を削減するという。
なぜ、そのような決定に至ったのだろうか。そこには、2つの大きな要因が挙げられよう。
第1は、トランプ政権の目玉である、政府効率化省(DOGE)が中心となって進めている歳出削減や規制緩和、省庁再編の方針に沿って、国防総省もほかの政府機関と同様に、組織・体制の見直しを迫られていることにある。
これに関連し、ドナルド・トランプ大統領は1月27日、「米軍から過激なジェンダー主義を排除する」とした大統領令に署名した。
同政権は、バイデン前政権が取り組んだ多様性・公平性・包摂性(DEI)重視の取り組みが軍を弱体化させたとして見直しを進めている。
軍内のDEIの推進に尽力し、あるいはそれによって登用されたと見られたチャールズ・ブラウン統合参謀本部議長(黒人)と海軍のリサ・フランチェッティ作戦部長(女性)といった米軍最上級幹部を解任した。
併せて、国防省傘下の国家安全保障局(NSA)のティモシー・ホーク局長(サイバー軍司令官兼務、空軍大将)などを、政権に批判的という理由から解任した。
また、ヘグセス国防長官は、心と体の性が異なるトランスジェンダーの兵士らに6月6日までの自主的な離職を求め、応じなければ強制的に排除する措置を取るとしている。
国防省の組織・体制の見直しとともに、反DEIの強まりが今後の将官級の人事にも影響を及ぼすことになりそうだ。
他方、ヘグセス長官は、軍の最高幹部が多すぎると指摘し、「将軍を減らし、GIを増やす」と主張していることが、2つ目の要因の一角である。
(注:GIとはGovernment Issue=官給品の略で、米陸軍の兵士一般を指す言葉として定着している)
このような指摘は、トランプ政権によって始まったわけではない。
しかし、歴代政権下で、米軍の部隊規模に比し将官級のポストが多くなったのではないかとの議論は長く行われてきた。
また、第2次トランプ政権になって、先般ヘグセス国防長官による「暫定国防戦略指針(Interim National Defense Strategic Guidance)」が発出され、「中国による台湾占拠の抑止」と「米国本土防衛の強化」に焦点を当てるとされた。
この大きな戦略転換に基づき、戦闘軍(Combatant Command)に対する任務付与、計画策定、訓練、作戦責任、そして地理的責任範囲を割り当てる「統合軍計画(Unified Command Plan)」を再検証・見直し、それに併せて将官級の削減を踏まえた人事管理の最適化について検討しようとするものだ。
統合軍計画は、統合参謀本部議長によって2年ごとに起草される機密文書である。
ヘグセス長官はXに投稿した動画で、「これは、統合参謀本部と協力して、将官・旗将官の階級を慎重に削減することで、戦略的即応性と作戦効果を最大化するという一つの目標に向けて、熟慮を重ねたプロセスです」と述べている。
つまり、米軍の組織再編とGFO削減は一体的取り組みが求められる問題ということだ。