ゴールデン・ドームの困難や課題
まず、本構想は、ロナルド・レーガン元大統領が推進した「戦略防衛構想(SDI構想、通称スター・ウォーズ計画)」を彷彿させるものである。
同計画(その詳述は避ける)は、技術的困難や開発費の膨張を招くなど研究開発が停滞し、実戦配備の目処が立たない中、ソ連のゴルバチョフ政権誕生をきっかけに緊張緩和と軍縮路線が加速し、SDI構想は次第に存在意義を失い、冷戦終結と相前後して、自然消滅に近い形で中止された。
ゴールデン・ドームも、この二の舞になるのではないかとの指摘だ。
トランプ大統領は、「ゴールデン・ドームの設計は既存の防衛能力と統合され、私の任期終了前には完全に運用可能になるはずだ」と計画発表の際に述べた。
言い換えると、トランプ大統領の任期が終わる2029年1月、つまり、約3年で本計画が完成するとの見通しである。
本計画には、リモートセンシング、画像処理、無人航空機システム、コンポーネントの小型化、宇宙基地とその打ち上げプラットフォームなどの技術的進歩や課題解決に加え、産業基盤や技術者の確保などの裏付けが必要である。
そのため、その構築方法次第では数千億ドルの費用を要し、1970年代に製造された大陸間弾道ミサイルの新型更新や宇宙配備迎撃ミサイルのネットワーク開発など、現在進行中のプロジェクトを圧迫する恐れがあると指摘されている。
同時に、開発・建設には予定より何年もかかる可能性があると見る専門家もいる。
また、「矛と盾」論争ではないが、ゴールデン・ドームが完成し実戦配備されたとしても、ミサイル防衛にはある程度のリスクが伴うことである。
ゴールデン・ドームによって敵のあらゆる経空脅威を阻止できる可能性は高まるが、リスクを完全に排除することはできないとの評価が依然残ることになろう。
さらに、隣国であるカナダやメキシコからのミサイルの脅威がなく、2つの海に囲まれた米国のような国にそのようなシステムが必要か、との疑問を呈する向きもある。
しかし、これらの困難・課題や批判を織り込んだうえで、世界の他の地域から発射されたミサイルや、宇宙から発射されたミサイルでさえも迎撃できる能力を持つことは、近年、ミサイルが脅威の主役に躍り出たことを考えれば、国を守るための必須要件となっており、そのチャレンジは大いに評価されるべきであろう。
日本にも類似システムが必要
日本に対するミサイルの脅威は、米国以上に切実かつ重大である。
日本は、米国から見た対等国のロシア、近対等国の中国およびならず者国家の北朝鮮に隣接し、これら周辺国からの「眼前の脅威」に日々曝されているからだ。
周辺国は近年、多弾頭・機動弾頭を搭載する弾道ミサイルや高速化・長射程化した巡航ミサイル、有人・無人航空機のステルス化・マルチロール化といった能力向上に加え、対艦弾道ミサイル、極超音速滑空兵器(HGV)などを装備しており、経空脅威は多様化・複雑化・強大化している。
そのため、日本は弾道ミサイル防衛(BMD)システムを整備し、イージス艦による上層での迎撃と「PAC-3」による下層での迎撃を、自動警戒管制システム(JADGE)により連携させて効果的に行う多層防衛を基本としている。
ロシアは、ウクライナの電力網などのインフラを含めたミサイル攻撃を国土全体に及ぼし、長期にわたり過激化させており、ウクライナの防空装備・システムの不足・弱体が同国に深刻な被害をもたらしている。
イランは、イスラエルに対し一挙に約300発のミサイルとドローンによる飽和攻撃を仕掛けたが、イスラエルはアイアン・ドームのおかげで、幸い被害を局限できた。
この世界の現実を直視し、果たして日本は長期の激烈な経空攻撃に耐え得るのか、あるいは数百といった同時ミサイル・ドローンによる飽和攻撃に同時対処できるのか、国土全体に及ぶ攻撃から安全を守れるのか、今一度、現BMDシステムを真剣に検証することが求められる。
もし、不備があると認められるならば、国民と重要インフラを守るためには、米国が目指すゴールデン・ドームに類似した最新のミサイル防衛システムは必須であり、早急にその構築に着手しなければならない。