対応を迫られる韓国の新政権

 かねて、米韓間には、米韓連合軍に対する戦時作戦統制権の韓国への移管問題がある。

 従来の「米韓軍の連合防衛体制」から「韓国軍が主導し米軍が支援する新たな共同防衛体制」に移行する検討が行われ、2015年12月までの移管完了を目標としていた。

 戦時作戦統制権移管後は、未来連合軍司令部として米韓連合軍司令官に現在の米国軍人、すなわち在韓米軍司令官に代わり韓国軍人を置くことを決めている。

 しかし、北朝鮮の核ミサイルの脅威が深刻化したことなどを受け、2014年に戦時作戦統制権の移管を再延期し、韓国軍の能力向上などの条件が達成された場合に移管を実施するという「条件に基づくアプローチ」の採用が決定され、今日に至っている。

 その後、韓国軍の能力評価が行われ、トランプ政権は、韓国が自国の防衛を担う能力を備えていると判断しているという。

 つまり、「米国の同盟国が自国の防衛をより多く担うべきだ」とするトランプ政権の原則を反映させる時機が十分に熟しているとの判断である。

 また、北朝鮮の抑止は主に韓国軍が担当し、米軍は主として中国、次いでロシアに集中するという意味を含んでいるとも理解される。

 ヘグセス国防長官は、シャングリラ対話で、中国の脅威にさらされる同地域の同盟国は「防衛能力を迅速に強化すべきだ」と述べた。

 北大西洋条約機構(NATO)加盟国が防衛支出の国内総生産(GDP)比5%への引き上げを議論していることを踏まえ、欧州諸国の取り組みが「新たな模範だ」として防衛費増額を求めた。

 日本とともに、韓国も例外ではない。

 韓国にとっては、中国は最大の貿易相手国であり、外国直接投資(FDI)の最大の投資先の一つでもある。

 こうした理由や歴史的背景などの理由から、韓国の指導者たちは概して中国との建設的な関係構築を目指している。

 一方、米国は対中戦略優位を確保するため、在韓米軍(USFK)および韓国軍の役割を重視しており、これが新政権の「北京との不必要な対立」を避けたいという意向を複雑化させる可能性がある。

「安米経中(安保は米国、経済は中国)」といった基本政策を維持できるかどうかに対する懸念である。

 また、親北・親中国、反日・反米を標榜してきた革新系政党「共に民主党」を支持基盤とする李在明大統領が「強固な韓米同盟・韓米日協力体制」の外交政策を堅持することにも抵抗や障害が付きまとう恐れがある。

 さらに、在韓米軍の削減や撤退は、歴代米政権でも取り上げられてきた問題である。

 米戦略国際問題研究所(CSIS)韓国部長のビクター・チャ氏は、「韓国の新政権は在韓米軍の役割の再調整を意味する戦略的柔軟性を受け入れるかどうか、重大な決定を下さなければならない」と述べた。

 そのうえで、「これを拒否した場合、トランプ大統領が韓国を『フリーライダー(無賃乗車者)』と見なし、報復措置を取る可能性がある。それは在韓米軍の全面撤収につながるかもしれない」と警告した(東亜日報、6月4日付)。

 このように、国際外交に新規参入した李大統領およびその政権にとって、重大な安全保障・国防に関する課題が突き付けられているのである。