大統領就任式でスピーチする韓国の李在明大統領(6月4日、写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

在韓米軍削減等を韓国に迫る

 2024年12月に「非常戒厳令」を発令し弾劾・罷免された韓国の尹錫悦前大統領の後任を決める大統領選挙が6月3日に行われ、最大野党「共に民主党」代表の李在明氏が当選し、6月4日、国会で大統領就任を宣言した。

 国内的には「(保守と革新の)分裂を終わらせ」、対外的には「強固な韓米同盟を土台に韓米日協力を固める」と述べた。

 李在明大統領は、これまで国内政治家と見られ、国際政治家としては未知数であるが、早速、在韓米軍の「戦略的柔軟性(strategic flexibility)」や削減といった重大な外交案件を突き付けられている。

 戦略的柔軟性とは、朝鮮半島内外で同時発生する危機への米韓両国の備え、そして台湾を含む他の地域における危機事態への在韓米軍の再展開などに柔軟に対処できる態勢を整備することである。

 ここでは、インド太平洋域内で危機や紛争が発生した際、在韓米軍が朝鮮半島外で作戦を展開できることを意味すると理解してよい。

 ピート・ヘグセス米国防長官は5月31日、アジア安全保障会議(通称「シャングリラ対話」)で演説し、中国による台湾の武力統一について「脅威は本物で、すぐにも現実となるかもしれない」と述べた。

 その上で、中国が武力による台湾統一を試みれば、「インド太平洋地域や世界に壊滅的な結果をもたらす」と強い危機感を顕わにした。

 そして、トランプ政権として、インド太平洋地域で中国の脅威への対処を最優先するとし、同盟国・友好国に対中抑止への連携を呼び掛けた。

 この際、ヘグセス国防長官に同行した国防総省高官は同行記者団に、この地域で米軍の増強を進める考えを示しつつ、将来の在韓米軍は、北朝鮮からの防衛だけでなく、中国への抑止力としても最適化されるだろうと述べた。

 そして、「韓国政府との協力は必須であり、両国同盟を現代化して戦略的な持続の可能性を確保することが重要だ」「こうした努力が北朝鮮だけでなく中国に対しても強力な抑止力を維持するのに寄与する」とし、「次期韓国政府と緊密に協力することを期待する」と述べた。

 他方、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙は5月23日、米国防省当局者の話として「在韓米軍4500人の移転検討、グアムなどに――国防総省が選択肢の一つとして検討――」と題する記事を掲載し、在韓米軍の配置転換や縮小について検討されている旨伝えた。

 これに先立つ4月10日の米上院軍事委員会公聴会で、ゼイビア・ブランソン在韓米軍司令官(陸軍大将)は「兵力削減は問題を引き起こす」と述べた。

 同じ公聴会で、インド太平洋軍司令官のサミュエル・パパロ海軍大将も、韓国からの兵力削減について「本質的に、紛争に勝利する能力が低下する」と述べた。

 このように、もし在韓米軍の戦略的柔軟性の採用や兵力削減が行われれば、北朝鮮に対する大幅な抑止・対処能力の低下は避けられない。

 李在明大統領は、就任当初から重大な安全保障・国防上の難題を突き付けられた格好だ。