「蜘蛛の巣」作戦の影響

「蜘蛛の巣」作戦は、ロシア・ウクライナ戦争における最大の損害をロシア航空戦力に与え、ウクライナ軍や国民の士気を高めた。

 この作戦のタイミングは、6月2日にトルコのイスタンブールで予定されていたロシア・ウクライナ和平交渉の直前であり、ウクライナの決意と軍事能力を世界に示す戦略的行動であったとも考えられる。

 一方、ロシア領内の奥深い基地(シベリアや北極圏を含む)が攻撃されたことは、ロシア国民や軍内部に遠隔基地の防空網の脆弱性を露呈させ、軍事および国民に心理的打撃を与えた。

 ロシア側が一部損害を認めたことで、国内での信頼性低下や政権への批判が高まるリスクも考えられる。

 しかし、この大胆な行動は外交努力を複雑化させる可能性がある。

 ロシアはクレムリンで緊急会議を開き、プーチン大統領が極超音速ミサイルを使用した報復攻撃の準備を命じたとの報告がある。ウクライナへのさらなる攻撃の激化が懸念される。

 以下、「蜘蛛の巣」作戦の影響について、「ウクライナへの空爆に与える影響」、「ロシアの戦略核戦力への影響」、「地上戦に与える影響」に焦点を当てて記述する。

ウクライナへの空爆に与える影響

「蜘蛛の巣」作戦は、ロシアの巡航ミサイルによるウクライナへの空爆の頻度や規模を短期的には低下させる可能性がある。しかし、完全な停止は期待できない。

 損害を受けたTu-95MSやTu-22M3は、ウクライナの都市やインフラを攻撃するための巡航ミサイル(Kh-101/102、Kh-22、Kh-32など)の主要な発射プラットフォームだ。

 ロシアの大規模ミサイル攻撃の頻度や規模が一時的に制限される可能性はある。

 ロシアは通常、7~11機の爆撃機を使用してミサイル攻撃を行うが、今回の損失によりこの数が減少し、攻撃のテンポが低下する可能性がある。

 また、損傷した機体の修理には時間がかかり、特に約50機運用されているTu-95MSは生産終了のため代替が困難だ。

 ロシアは戦略爆撃機以外の手段(海軍艦艇、地上発射ミサイル、シャヘド・ドローンなど)で空爆を継続する能力を保持している。

 実際、「蜘蛛の巣」作戦直前にはロシアによる472機のドローン攻撃があった。

 したがって、空爆の完全な停止は期待できず、むしろロシアが報復として攻撃をエスカレートさせる可能性がある。

 例えば、実験段階にある「オレシュニク・ミサイル」や他の高性能兵器で報復する可能性がある。

 一方、ロシアの爆撃機の損失は、ウクライナの防空システム(パトリオットなど)の負担を軽減する可能性がある。

 ウクライナはパトリオットの弾薬不足に直面しており、ミサイル迎撃よりも発射プラットフォームの破壊が効果的であると判断した可能性がある。

 つまり、ウクライナが受け身の防空から積極的な攻撃へと戦略を転換したことを示している。