人工的に休眠できる未来
「たとえば、3次元の細胞培養物であるオルガノイドの製造に活用できます。幹細胞の培養によってつくられるミニチュア臓器ですが、これをつくるのには長い時間を必要とします。仮に時間を操る因子を思うように活用できるようになれば、オルガノイドの製造期間を大幅に短縮できる可能性があります。あるいは宇宙旅行が一般化したときに、食用生物を休眠状態にして持っていけば、鮮度の良いものを食べられるようになるでしょう」

もとより休眠に関わる因子は、1つではないと荻沼氏は語る。複数の因子が作用しているのは間違いなく、それがどれぐらいの数になるのか現時点では、まだ予想もできない。
「けれども、その因子がすべてが明らかになったときには、ヒトを人工的に休眠状態に持っていける可能性がでてきます。とはいえ研究者として何より期待しているのは、研究を進めていく過程で起こる思いもよらなかった事実との出会いです」
「研究の最大の醍醐味は“おぉっ、こんなとんでもないことが実際に起きていたのだ”という発見との出会いです。少なくともキリフィッシュの休眠に関しては、今のところ日本で取り組んでいる研究者が私一人なので、とんでもない研究成果を出せるのも私だけです。研究者冥利に尽きると思っています」
「Scienc-ome」とは
新進気鋭の研究者たちが、オンラインで最新の研究成果を発表し合って交流するフォーラム。「反分野的」」をキャッチフレーズに、既存の学問領域にとらわれない、ボーダーレスな研究とイノベーションの推進に力を入れている。フォーラムは基本的に毎週水曜日21時~22時(日本時間)に開催され、アメリカ、ヨーロッパ、中国など世界中から参加できる。企業や投資家、さらに高校生も参加している。
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竹林 篤実(たけばやし・あつみ) 理系ライターズ「チーム・パスカル」代表
1960年、滋賀県生まれ。1984年京都大学文学部哲学科卒業、印刷会社、デザイン事務所を経て、1992年コミュニケーション研究所を設立し、SPプランナー、ライターとして活動。2011年理系ライターズ「チーム・パスカル」設立。2008年より理系研究者の取材を開始し、これまでに数百人の教授取材をこなす。他にも上場企業トップ、各界著名人などの取材総数は2000回を超える。著書に『インタビュー式営業術』『ポーター×コトラー仕事現場で使えるマーケティングの実践法がわかる本(共著)』『「売れない」を「売れる」に変えるマーケティング女子の発想法(共著)』『いのちの科学の最前線(チーム・パスカル)』