徐々に解明されていく休眠メカニズム
「遺伝子の動態や機能をきめ細かく解析する必要があります。それも可能な限り迅速に行いたい。そのために高速遺伝子解析法を自分で開発しました。CRISPR-Cas9を活用して、時間をかけずに遺伝子をノックアウトする技術です(Oginuma et al,.Sci Rep 2022:*1)。さらに細胞の状態を数週間から数カ月レベルまで自動観察する顕微鏡システムも設置しました」

これまでの研究の成果として、休眠状態の制御に関係のある因子が見つかっている。この因子により休眠が、能動的に制御されている可能性が見えてきたという。研究成果は取材時点(2025年5月1日)で論文にまとめられている途中だが、論文発表されれば大きな反響を呼ぶだろう。休眠を制御する因子とはすなわち、胚の成長過程における時間を自在に操る因子だ。少なくともターコイズキリフィッシュについては、時を制御するメカニズムが解明されつつある。
休眠を制御する因子を確定できれば、次はその因子の活用へと研究は進んでいく。さらにターコイズキリフィッシュで、その因子を活用できるようになれば、他の動物への展開へと広がっていく。
「休眠する生き物はターコイズキリフィッシュだけでなく、たとえばナマズも休眠する動物です。あるいはアカシカも、最も条件の良い春に子どもが生まれてくるように、休眠によって胚の着床を遅らせるメカニズムを持っています。これは発生休眠と呼ばれていて、実はヒトでも同じ現象、つまり受精から着床までの時間がコントロールされている可能性が示唆されています」
荻沼氏の研究がさらに進められたときには、どのような未来が実現するのだろうか。応用先はいくつか見えつつあるという。