ジンバブエで見つけた休眠する魚
「アフリカ・ジンバブエ原産の魚、ターコイズキリフィッシュが、まさに条件にピッタリ当てはまる生き物でした。この魚は卵生メダカで、雨季だけにできる池で暮らしています。そのため乾季の間は、胚の発生が途中で止まり休眠状態に入ります。やがて再び雨季になれば発生を始めて成長し、寿命をまっとうするのです」
「似たような生き物としてクマムシが知られていますが、クマムシの場合は乾眠、つまり完全にフリーズドライな状態になってダメージを抑えます。ところがターコイズキリフィッシュの場合、休眠していても細胞は生きて動いているのです。ただし、成長だけはしないようになっています」
休眠しているのであれば、その状態の遺伝子の状態を解析すれば、休眠を制御している機序を解明できる可能性が出てくる。

新しい実験方法を自ら開発する
ターコイズキリフィッシュの寿命は4カ月と短い。脊椎動物の中でも寿命について最短の部類に入るため、寿命研究をしやすいモデル動物として着目されている。ただし荻沼氏の関心は寿命ではなく、休眠状態に向けられている。
「乾季の間は休眠状態に入っていて、条件を整えれば休眠状態をこれまでに3年まで維持できています。しかも長期間にわたって休眠しても、目覚めてからの成長には何の影響も及ぼしません。とはいえ代謝が止まっているわけではなく、胚の周囲にある卵黄から栄養を得て代謝をしている。したがって微量ながらも栄養を与え続ければ、永遠に休眠状態を保てる可能性もあるわけです。まさに不老不死の実現です」

休眠状態を保てるとは、何を意味するのか。ターコイズキリフィッシュには、胚の時間を制御する何らかの分子機構があるという話になる。では、その分子機構を見つけるためには、どうすればよいのか。