「エージェント経済」で起こりうる数々の変化
たとえば、新しい税理士を探している消費者は、これまで自分の財務状況を一から説明し直す手間を恐れて、サービスの切り替えを躊躇するかもしれない。ところが、消費者のアシスタントとなるAIエージェントがこうした情報を効率的に伝達できるようになれば、より良いサービスや低価格を提供する税理士への乗り換えが容易になる。
さらに重要なのは、AIエージェント同士が直接コミュニケーションを取れるようになることだ。
消費者側のアシスタントエージェントと、企業側のサービスエージェントが、標準化されたプロトコル(通信する際のルール)を通じて柔軟に対話できるようになれば、市場の効率性は飛躍的に向上する(実はこの点については、MCPやA2Aなど、すでに標準化の仕組みが開発・推進されつつある)。
そして、この変化は現在の「プラットフォーム経済」に根本的な転換をもたらす可能性がある。
AmazonやGoogle、Spotifyといった大手プラットフォームは消費者と事業者をマッチングすることで価値を生み出してきたが、AIエージェントが直接かつ柔軟にコミュニケーションできるようになれば、こうした仲介者の役割は大きく変わるだろう。
プラットフォーム経済に代わる「エージェント経済」では、さまざまな変化が予想される。
まず、広告の役割が根本的に変わる。
現在のデジタル経済では、消費者の注意を引くことが重要だが、消費者のアシスタントエージェントが何百万もの事業者と対話できる世界では、注意はもはや希少な資源ではなくなる。代わりに重要になるのは、AIエージェントの性能と、人間による適切なフィードバックだ。
また、マイクロトランザクション(少額の取引や決済)の増加も予想される。
エージェントが取引を完全に処理するようになれば、従来は面倒だった少額決済も容易になる。消費者のアシスタントが複数のコンテンツサービスを頻繁かつシームレスに切り替えるようになれば、サブスクリプションのような定額制サービスよりも、使用量ベースの支払いが好まれるようになるかもしれない。
さらに、消費者ごとのカスタマイズも容易になる。
たとえば、消費者のアシスタントエージェントは、ユーザーが既に読んだ内容を追跡し、サービスエージェントと協力して、新しい情報や関連性の高い情報のみに焦点を当てたカスタマイズされた記事を生成できるようになる。
こうした変化が最終的にどのような全体像をもたらすのかは分からないが、私たちの知る経済活動、特にネット上やネットを介して行われるそれは、大きく姿を変えることは間違いない。