エージェントの性格によって世界経済の未来が変わる
最初のシナリオは、「エージェント経済」が協調的な姿を取るというものだ。
もしAIエージェントが協調的で公平な性格を持つように設計されれば、経済は大きな効率性と公平性を実現する可能性がある。
消費者のアシスタントエージェントは、最適な価格と品質の組み合わせを見つけ、事業者のサービスエージェントは、公正な競争を通じて革新を促進する。取引コストの削減により、小規模事業者も大企業と対等に競争できるようになり、経済の民主化が進むだろう。
それとは対照的なのが、2番目のシナリオだ。
もし各社のAIエージェントが、主に自己利益を最大化するように設計されてしまったら、「競争的なエージェント経済」がもたらされる可能性がある。そこでは極度の競争が行われ、常に不安定であり、AIエージェントは他者を出し抜くために欺瞞的な戦術を使うだろう。また情報の非対称性を悪用し、市場を操作しようとするかもしれない。
最後のシナリオは、「分断されたエージェント経済」が出現するというものだ。
異なる企業が異なる性格を持つAIエージェントを開発すれば、経済は複数の「部族」にまとまり、経済が分断される可能性がある。GoogleのエージェントはGoogleの価値観を反映し、Amazonのエージェントは異なる優先順位を持つ。
その場合、「部族」内での経済活動は安定的になるかもしれないが、異なるエージェント間の相互作用は、予測不可能で時に破壊的な結果をもたらす可能性がある。
これらのシナリオは、AIエージェントの性格が単に技術的な問題ではなく、経済の根本的な構造を決定する要因であることを示している。
Microsoft Researchの研究者らは、エージェント経済が「閉鎖的なウォールドガーデン(囲まれた庭)」になるか、「オープンなエージェント型ウェブ」になるかは、エージェントの性格と行動様式に大きく依存すると指摘する。
もしエージェントが主に競争的で自己中心的であれば、企業は自社のエージェントを保護するために閉鎖的なエコシステムを構築する可能性が高い。これは、現在のアプリストアのような状況を生み出し、少数の支配的なプレイヤーが市場力を行使する結果となる。
AIエージェントの性格が、単に個々の取引や相互作用に影響を与えるだけでなく、経済全体の構造と動態を決定する可能性がある以上、AIエージェントを開発する企業に対して適切な統制をかける必要があるだろう。それは単なる消費者保護の問題ではなく、経済の安定性と公平性を確保するための根本的な要件となり得る。
AIエージェントがもたらす経済革命は、遠い未来の話ではない。すでに技術的な基盤は整いつつあり、大手テクノロジー企業は積極的に関連製品・サービスの開発を進めている。
AIエージェントの「性格」が適切に形成されるよう、企業を指導・管理することは、21世紀の最も重要な政策課題のひとつとなる可能性がある。すべての人々がAIエージェント経済の恩恵を享受できるよう、適切な対応が進められなければならない。
小林 啓倫(こばやし・あきひと)
経営コンサルタント。1973年東京都生まれ。獨協大学卒、筑波大学大学院修士課程修了。
システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業、大手メーカー等で先端テクノロジーを活用した事業開発に取り組む。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』『ドローン・ビジネスの衝撃』『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(草思社)、『データ・アナリティクス3.0』(日経BP)、『情報セキュリティの敗北史』(白揚社)など多数。先端テクノロジーのビジネス活用に関するセミナーも多数手がける。
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