原子力緊急事態宣言発令中でも原発推進
こうした中、新しいタイプの原発として注目されているのが、次世代の原発「小型モジュール炉(SMR)」です。SMRは既存の原子炉と比べて運転効率が高く、建設時間もかからないとされ、中国やロシア、インドなどが開発に力を入れてきました。米国などもこのSMRに積極的に関与。新興企業ニュースケール・パワーがアイダホ州で進めていたSMR建設が中止になるなどの紆余曲折は生じているものの、日本のメーカーも研究開発に乗り出すなど各国の関心は衰えていません。
ただ、原発回帰が強まる中、どうしても忘れてはいけないことがあります。
1つはコストの問題。原発は計画から実際の稼働まで、10年、20年を費やす大事業です。投資額も極めて大きく、核廃棄物処理までを含めると、発電コストは必ずしも安くないことがわかっています。資金や制度面で公的な支援がないと、事業継続は見込めない恐れがあります。
もう1つは安全性です。福島原発では、溶け落ちた核燃料(デブリ)を取り出して処理する作業が全く進んでおらず、作業完了の見通しも立っていません。原発事故から15年目になりますが、実は、原子力緊急事態法に基づく「原子力緊急事態宣言」は現在も解除されていないのです。緊急事態宣言も解除されず、デブリ取り出しのめども立っていないのに、日本は再び原発新設に走りだしているのです。
フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。