労働コストの引き下げを阻む連立の枠組み

 停滞が続く労働生産性を改善するためには付加価値を増やさなければならず、エネルギーコストや労働コストの引き下げは急務だ。ただし、最大与党である中道右派のキリスト教民主同盟と同社会同盟から成る「同盟」(Union)は経済界寄りの立場であるが、一方でパートナー政党である中道左派の社会民主党(SPD)は労働界寄りだ。

 ドイツは「ない袖は振れぬ」状況であるにもかかわらず、新政権は現時点で時給12.82ユーロの最低賃金を、2026年までに同15ユーロに引き上げることを目指している。本来なら賃下げが視野に入る状況にもかかわらず、UnionがSPDに配慮したため、こうした公約が掲げられたようだ。これでは労働コストの削減はなかなか進まない。

 他方で、エネルギーコストを削減しようとすると、やはり再エネシフトの見直しが必要となる。

 先に述べたライヒェ経済相のバイエルン州での発言は、直前にスペインで生じた大規模停電を意識したものとされる。スペインも発電に占める再エネ比率が高いわけだが、安定供給という観点に鑑みれば、天候に左右される再エネはやはりぜい弱である。

 ここで問題になるのが環境政党である同盟90/緑の党(B90/Grünen)との関係だ。

 Union出身のフリードリヒ・メルツ首相がドイツ連邦議会で任命を受ける際にSPD側から造反が出たように、政権の基盤は盤石ではない。極右である「ドイツのための選択肢」(AfD)との協力を拒む以上、新政権にとってB90/Grünenとの関係は重要である。

 そのB90/Grünenにとって、再エネシフトの見直しは容認しがたい。原子力や石炭火力への回帰も受け入れがたいため、残された手段はガス火力の強化の他にない。

 ただ、ガス火力を強化するといっても、AfD支持者を中心にロシアとの関係改善を進めて、パイプライン経由で輸入される安価な同国産ガスを使うべきだという世論を刺激するというジレンマがある。