大人が用意した「体験」から得られることなどたかがしれている
──子どもの「体験」に不安を抱く親御さんに、メッセージをお願いいたします。
おおた:「サッカーがやりたいけれども、家庭の金銭的な事情をおもんぱかって本心を親に伝えられなかった」という子どものエピソードをメディアでよく見かけます。結局、泣きながら「サッカーをやりたい」と親に訴えた、というものです。
サッカーを習わせてやれない親御さんも、習えないお子さんも、非常につらい思いをしたに違いありません。けれども、サッカーができなかったからといって、人生において何か重要なものが欠けたまま大人になるなんてこともあり得ません。

むしろ、いつかその苦い体験にすら意味を見出すのが、人間のたくましさです。病気で長期間、学校を休まなければならなかった、失恋した。そういったことすら、その人の糧になって、その人の魅力になり得ます。これが生きることではないでしょうか。
子どもは生きているだけで日々さまざまなことを体験し、膨大な学びを得ています。それに比べたら、習い事など大人が用意した「体験」から得られることなどたかがしれています。
何かをやらせてあげられなかったとしても、それが子どもにとって致命的なビハインドになることはあり得ません。だから、安心して、自分を信じて、子どもを信じて、子育てをしてほしいと思います。
おおたとしまさ
教育ジャーナリスト
1973年 東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒業。リクルートから独立後、数々の教育誌の編集に携わり、現在は独自の取材活動をもとに幅広い媒体に寄稿。著書は90冊以上。
関 瑶子(せき・ようこ)
早稲田大学大学院創造理工学研究科修士課程修了。素材メーカーの研究開発部門・営業企画部門、市場調査会社、外資系コンサルティング会社を経て独立。YouTubeチャンネル「著者が語る」の運営に参画中。