ジャンヌが歴史の表舞台に現れた背景

 ジャンヌはあるときより、神の声が聞こえるようになり、その声に基づいて、城主にオルレアン解放への積極参加を主張した。ここでこの城主は、なんとジャンヌの言い分を認めて、本当に従者を与え、ジャンヌの進発を力強く支援した。

 実はこの城主、ジャンヌの父ジャックを「長老」に任じた人物であり、ジャックは何度も城主に減税を意見しに出向いたことがある。2人の男は顔見知りであったのである。

 こうした背景を見ていくと、ジャンヌの奇跡の背後に幾らかの政治的な思惑があることを認められる。

 なお、ジャンヌ死後、その名誉を回復するために行われた復権裁判において、同じ村の友人が村人時代のジャンヌを「すすんで、度々教会に通い、父親から貰ったものを貧しい人々に施して」いていたと証言している。

 ジャンヌは生活に困らない富裕層で、なおかつ善良な娘であり、村人たちからも好まれていた。

 彼女の言動には曇りがなく、彼女を有罪にしようとする者たちですら、その清らかな答弁に動揺することがあった。

 小説や映画の中に、ジャンヌを異常者、狂気の人とする作品は少なくない。だが、確かな実像を求めて、情報を整理していくと、意外に普通の人間であったことが見えてくる。

 彼女の謎については、電子書籍限定で発売させてもらった『ジャンヌ・ダルクまたは聖女の行進』(日本ビジネスプレス、2025)で様々に考察しているので、よろしければご一読願いたい。

 

【乃至政彦】ないしまさひこ。歴史家。1974年生まれ。高松市出身、相模原市在住。著書に『戦国大変 決断を迫られた武将たち』『謙信越山』(ともにJBpress)、『謙信×信長 手取川合戦の真実』(PHP新書)、『平将門と天慶の乱』『戦国の陣形』(講談社現代新書)、『天下分け目の関ヶ原の合戦はなかった』(河出書房新社)など。書籍監修や講演でも活動中。現在、戦国時代から世界史まで、著者独自の視点で歴史を読み解くコンテンツ企画『歴史ノ部屋』配信中。