労働者派遣を巡る典型的な「5つの誤解」
労働者派遣の実情を巡っては、多くの誤解が見られます。人材派遣業界が抱える課題をそれらが見えにくくしている面があるため、先に整理しておきたいと思います。典型的な誤解を5つ挙げます。
まず1つ目は、派遣社員の比率についての誤解です。これまで少なくとも100人以上の方に、「派遣労働者は全雇用者の何%くらいだと思いますか」と尋ねたことがありますが、最も多かったのは「30%くらい」という回答でした。次に多いのが40%。いわゆる非正規社員全体の比率が、30~40%とされていることから発生している誤解かもしれません。
総務省の「労働力調査」によると、2024年の雇用者総数は6115万人。派遣社員は154万人で、比率にすると2.5%に過ぎない特殊な雇用形態です。海外各国も比率はおおむね似た水準になっています。外国人雇用状況で発表されている外国人労働者数230万人よりもずっと少ないのが実情です。
次に、非正規社員に占める派遣社員の割合についての誤解です。派遣社員は非正規社員の代表格のような印象を持たれがちで、非正規社員のすべてが派遣社員であるかのような言説を目にすることもあります。
前出の労働力調査によると、2024年の非正規社員比率は全雇用者の34.8%で2126万人です。それを100%として内訳を見てみると、パート48.4%(1028万人)、アルバイト22.3%(474万人)、契約社員13.0%(277万人)に対し、派遣社員は7.2%(154万人)に過ぎません。非正規社員の代表は、7割を占めるパートやアルバイトであるというのが実情です。
派遣社員は低賃金という誤解もあります。それが3つ目です。インディードリクルートパートナーズの2025年4月調査によると、三大都市圏におけるパートとアルバイトの募集時平均時給は1260円。一方、派遣社員は500円高い1760円です。いわゆる正社員と比較すればボーナスなどがある分年収換算で高いとは言えないものの、非正規社員の中で派遣社員は相対的に高い賃金水準に位置しています。
また、派遣社員は不遇でかわいそうな働き方といった誤解もあります。エン・ジャパンが2025年に行った「派遣を選ぶ理由」調査の中で現在派遣社員として働いている人に満足度を尋ねると、「満足」「どちらかと言えば満足」が合わせて73%でした。仕事内容や勤務時間を選べるといった利点を感じている人がたくさんいます。
最後5つ目は、派遣社員はすべて有期雇用という誤解です。労働者派遣事業報告書集計結果から2024年6月1日時点の無期雇用派遣労働者の比率を算出すると42.7%です。さらに、2023年は41.1%、2022年は40.1%だったのでジワジワと上昇してきています。法改正による雇用安定措置で無期雇用化が進んだことや、売り手市場で有期雇用での採用がしづらくなっていることなどが背景にあります。