「派遣切り」や「年越し派遣村」の教訓を活かしきれていない
最後5点目は、業界全体の自浄作用が十分に機能していない点です。派遣切りや年越し派遣村などの報道で派遣業界は大きなダメージを受けましたが、脇の甘さを反省し、真摯にコンプライアンスなどの取り組みに向き合ってきた派遣事業者は少なくありません。

業界団体と厚生労働省が協力して優良派遣事業者認定制度を構築するなど、自浄作用を働かせる努力も積み重ねてきました。しかし、かつてグッドウィルが行った不当な天引きの記憶や先に挙げた過大請求事件、不本意型派遣社員への支援不足など、社会の信頼を得られるだけの取り組みができているかというと、まだまだ不十分です。
派遣法が制定されるまでの歩みを派遣事業者側として関わった目線から著された小冊子『派遣前夜』には、こんな一文があります。
〈資源のない我が国にあって、有能な労働力こそ経済的国力である。埋もれた能力や技術を掘り起こし、必要に応じて教育し、社会に還元するこの業界の存在意義は極めて大きいと自負している〉
労働者派遣法制定当初の思いは、派遣業界にどれだけ受け継がれてきているでしょうか。課題は山積しています。先に挙げた5点はその一部に過ぎません。課題解決には、派遣法とともに歩んできた40年の歴史と向き合い、その功罪を冷静に見極め、教訓を活かす必要があるのではないでしょうか。
【川上 敬太郎(かわかみ・けいたろう)】
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市生まれ。愛知大学文学部卒業。大手人材サービス企業の事業責任者、業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長のほか、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等で役員・管理職を歴任し厚生労働省委託事業検討会委員等も務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心に5万人以上の声を調査・分析したレポートは300本を超える。NHK「あさイチ」「クローズアップ現代」、テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」等メディア出演、寄稿多数。現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役のほか、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む、2男2女4児の父で兼業主夫。