現在の米国に理念論は響かない
日本は米国のようにエネルギーや食料を自給できる訳ではない。他国との交易を通じて、日本が得意な経済活動を行い、日本にはない資源を輸入することができて初めて国内に住む者の生活水準を上げていくことができる。
そうした経済は日本以外にもたくさんある。欧州などもその1つだ。ロシアと対立し、その友好国である中国とも一定の距離を保たざるを得ず、さらに米国までが自給自足化しようとしているのであるから、欧州としても域内協力だけではこれまでのような成長を続けることは難しいだろう。
そして日本に近い東南アジア、太平洋州の国々の多くも似た事情に直面している。そうした中で日本としては、今日の米国、中国、ロシアのスタンスを前提にすれば、状況の似た仲間の国々と共栄を図っていかなければ状況はますます厳しくなるという現実的な理由で自由貿易の旗を振るべきではないか。理念論は少なくとも現在の米国にはあまり響かなそうだ。
米国経済の成長率は、少し自給自足化の方向に進む分、低下するだろう。不得意なことにこれまで以上に頑張ることになる訳であるから、それは避けられない。また、米国の国内市場を通じて成長をしてきた中国も、それへのアクセスが制限されればその成長率は低下するだろう。
米中という2つの経済大国の経済成長が制約されれば、世界経済の成長率も低下する。それは先の国際通貨基金(IMF)の世界経済見通し(WEO)で示された通りだ。
そのショックを和らげるためには、自由貿易の重要性を共有できる国々とこれまで以上の友好関係を築き、米中に関しての制約が強くなる中にあっても、少しでも経済活動を活性化させていく以外にない。
そして、その反対側では、国内において、日本経済の得意・不得意をはっきり認識して、不得意な分野から得意な分野へと、少しでもヒト・モノ・カネの生産要素をこれまで以上に円滑に移していかなければならない。
米国内の負け組を考える時に、実はグローバル化だけでなく、もう一つの変化にも注目する必要がある。