
(ライター、構成作家:川岸 徹)
様々な手法と様式を駆使し、多岐にわたるテーマの絵画を生み出し続ける破格の画家・横尾忠則(1936-)。近年ではその息の長い驚異的な創造力が注目を集めている。新作64点を公開する「横尾忠則 連画の河」展が東京・世田谷美術館で開幕した。
発端は「1枚の記念写真」
2023年、東京国立博物館表慶館にて新作102点を公開する「横尾忠則 寒山百得」展が開催された時、ただただ「これが86歳の画力か!」と感嘆するばかりだった。そして、その衝撃を上回る機会がわずか2年後に訪れるとは思ってもみなかった。2025年4月26日に世田谷美術館で開幕した「横尾忠則 連画の河」展。150号(約182cm×227cm)を中心とする大型のキャンバスに描かれた新作油彩画64点に、「これが88歳の画力か!」と、またしても圧倒されてしまった。

横尾忠則は1936年、兵庫県西脇市に生まれた。50年代からグラフィックデザイナーとして活躍し、独自性の高いイラストやポスターを制作。1972年にはニューヨーク近代美術館で個展が開催され、その後パリ、ヴェネツィア、サンパウロの世界3大ビエンナーレに出品。現在も日本はもとより、海外でもファンを増やし続けている。
名実ともに日本を代表する現代アーティストである画家・横尾忠則。さて、その新作展はどのような内容なのか。
展示されている油彩画は、この2年間で描いた「新作64点」と「旧作1点」。このうち、「旧作1点」である油彩画《記憶の鎮魂歌》(1994年、横尾忠則現代美術館蔵)と、その作品のモチーフになった「1枚の記念写真」が本展開催のきっかけだという。

展覧会企画の始まりについて、本展担当の塚田美紀学芸員がこう説明する。「1枚の記念写真というのは、1970年に横尾さんが故郷・西脇市の川辺で同級生たちと撮ったもの。撮影したのは写真家の篠山紀信さんです。この写真にインスピレーションを得て、横尾さんは1994年に《記憶の鎮魂歌》という大作を描きます。本展はこの大作を基点に描いた64点の新作連画を紹介するものです」

《記憶の鎮魂歌》を発端にして生まれた64点の「連画」。連画とは耳慣れない言葉だが、他者の言葉を引き取りつつ歌を詠み、それをまた別の者に託すという「連歌」を、絵画のスタイルにアレンジしたもの。横尾は前日に描いた自分の作品を他人の絵のように受け止め、そこから今日の筆が導かれるままに絵を描き、思いもよらぬ世界が拓けることを楽しんだという。
「ですから、どんな作品が生まれるのか、結果として何点制作されるのか見当がつかない。これは美術館としてはハードルが高いことなのですが、横尾さんと世田谷美術館は付き合いが長いので、一蓮托生の気分で横尾さんにおまかせしました」(塚田美紀学芸員)