そして、2011年2月14日、さいたま地裁で判決が下されました。田村真裁判長は、「B、Cの両被告は、Aが多量の飲酒で正常な運転が困難だと認識しながら乗用車に同乗。飲酒運転を了解し、黙認した。飲酒運転を制止する義務がありながら黙認したことで、この犯行が容易になった」と指摘し、両被告に懲役2年の実刑判決を言い渡しました。

 この判決を不服とした被告らは、控訴、上告を重ねますが、2013年4月15日、最高裁第3小法廷(寺田逸郎裁判長)は、両被告の上告を棄却。全国初となる「危険運転致死傷幇助罪」を認め、同乗者に対しての実刑判決が確定したのです。

 このとき、事件発生からすでに5年以上の歳月が経過していました。

同乗者にも重い責任がある

 小沢さん夫妻は2012年7月、交通事故遺族らと共に「一般社団法人 関東交通犯罪遺族の会(あいの会)」を立ち上げ、交通犯罪遺族という立場から、交通安全と命の大切さを伝える活動を続けてきました。

 同会の代表理事を務める妻の樹里さんは、交通犯罪遺族の立場で綴る自身のブログ〈家族の光の中へ〉で、今回、横須賀で起こった飲酒運転による多重衝突に触れ、同乗者の責任についてこう記しています。

〈5月6日、NHKで報じられたひき逃げ事件のニュースを見て、2008年に私たち家族が被害に遭った交通事故の記憶がよみがえりました。このようなケースでは、運転手には危険運転致傷罪と救護義務違反(いわゆる“ひき逃げ”)が問われる可能性がありますが、私が注目したのは「同乗者の責任」です。

 実は、日本では「危険運転致死傷罪」の成立そのものが難しいとされており、さらにその“幇助犯”(手助けをした者)がしっかりと裁かれる例は、今でも少ないのが現実です。2008年、私の家族が被害に遭った事故でも、同乗者がいたにもかかわらず「危険運転幇助」としての責任追及には高いハードルがありました。

 止められたはずの事故を止めなかった同乗者、酒を出した側、周囲の環境すべてが一体となって、社会は加害者・被害者のどちらにもなりえます。

 今回の事件で、もし同乗者が運転を止めなかったのであれば、その行為は見逃されてはいけないと思います。法律にのっとり、同乗者にも「危険運転幇助罪」が適用されることを強く願います。同時に、こうした実例が積み重なっていくことで、私たちの社会が本当の意味で飲酒運転を許さない空気になっていくことも期待しています。

 命を守るのは、運転手だけではありません。飲酒運転をなくすためにも、このような交通事件がしっかりと実例として残ることを願っています〉

飲酒運転の罰則等(警視庁HPより)

 ハンドルを握らないのだから同乗者に責任はない、そう思っているのなら大きな間違いです。もし、運転者が酒を飲んでいることを認識したなら、全力で運転行為を阻止し、絶対にその車には乗らないでください。

 そして万一、飲酒運転の被害に遭い、その車に同乗者がいた場合は、小沢さん夫妻のように、同乗者の刑事責任をしっかりと追及することが重要です。