「感情論だけで『犯人に重罰を』と訴えているわけじゃない」

 ちなみに、「危険運転致死傷」の条文、第三条の2項には、

〈2 自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた者も、前項と同様とする。〉

 とあります。智里さんは、『被告の行為は、検察官も指摘するように、この条文に極めて近く、本件事故は起こるべくして起こったのではないか』そう考えているといいます。

「大型車を操るプロドライバーさんの大半は、安全対策をきちんとしてくださっている優良な方々だと思っています。それだけに、今回事故を起こした被告はもちろん、雇用していた運送会社のあまりにもずさんな管理体制は許されません。危険運転で起訴できないかどうか、検察による十分な検討が足りないように私には感じます。もう少し、色々な角度から検討すれば、危険運転致死傷罪で起訴することも可能だったのではないでしょうか。

 私は決して、感情論だけで、主人を殺した犯人が憎い、重罰を、と訴えているわけではありません。こうした悲惨な事故をなくし、加害者にも被害者にもならない世の中にしていくためにも、今、流れを変えなければいけない。軽い罪の前例を残したくはありません。ここで危険運転致死傷罪になるからこそ、運送会社へのこれからの法改正にもつなげていけると思うのです。

 この1年間、私たち遺族がどれだけつらい思いをしてきたか……。裁判はこれから始まりますが、私は今後も国民の理解が得られる裁判になるよう声を上げ続けていきますので、どうぞ見守ってください。 よろしくお願いいたします」

 会見が行われた4月9日、警視庁交通捜査課は、出発前の点呼も行わず体調不良の運転手を業務に就かせとして、運送会社「マルハリ」の元社長(48)を業務上過失致死傷容疑で書類送検しました。

 すでに起訴されている降籏被告の初公判は、5月中に開かれる予定ですが、「危険運転致死傷罪」への訴因変更を求める遺族らの訴えは届くのか、注目したいと思います。

子どもたちが撮影した夫婦の写真。裕紀さんのお気に入りで携帯電話の待ち受け画面に使われていたという(遺族提供)