「加害者が100%悪い」は揺るがない
小森さんの問題提起を評価する専門家も少なくない。教育評論家の尾木直樹さんもその1人だ。
小森さんが現地でアンケートを実施し、その回答を次に生かすなど常に研修や講演の内容を進化させている点を挙げ、尾木さんは、「小森さんは現場の声を本当にたくさん聞いている。ある意味では、いじめ問題の第一人者だと思っています」と強調する。
「大人の誤解」の弊害については、尾木さんも同様の意見を持っている。

「いじめについては、文部科学省が定義しています。それが2006年度に改まり、いじめを定義するときの主語が、それまでの加害者から当該の児童生徒となりました。つまり、『いじめられている児童や生徒』が、精神的な苦痛を感じたものがいじめ、と非常にシンプルになったんです」
ところが、学校も教育委員会もいまだに被害者側の視点に立ち切れていない、と尾木さんは説明する。
「たとえ被害者に問題があったとしても、いじめていい理由にはなりません。いじめは加害者が100パーセント悪い。そこが一番のポイントです。加害者が加害行為をしなければ、いじめの被害者はゼロなんです」
尾木さんによると、現在、ほとんどのいじめがネットやSNSを介して行われ、見えにくくなっている。海外でも深刻な課題となっており、一部の国では、いじめを厳罰化する方向に進んでいる。例えば、フランスでは2022年、いじめを犯罪とする法律が成立し、加害者は最高15万ユーロ(およそ2400万円)と最高10年の拘禁刑が課せられる可能性が出てきた。
日本では、2023年4月にこども基本法が施行され、こども家庭庁も動き始めた。それから2年が経過したが、いじめの認知件数は一向に減らず、対策は多くの課題を抱えたままだ。
ただ、尾木さんによると、海外のような厳罰化を日本も実施すべきだという考えも、「大人の誤解」のようだ。
「加害者にいじめ行為の残酷さ、罪深さに気づかせて、ストップさせ、人の痛みや苦しみに共感できる感性や人格を育てる必要があります。いじめが起きたとき、被害者に寄り添って守ろうとするのは大事なことですが、それだけでは根本的な解決にはなりません」と語る。