「けんか両成敗」は「伝統芸能」

 読者は、小森さんの指摘をどう捉えているのだろうか。

 大人の中には、小森さんの著書について「遺族の持論の展開に過ぎない」と批判する人もいた。確かに小森さん自身は教育の専門家ではないし、著作を世に送り出すことへの葛藤もあったという。それでも、これだけ多くの現場の人たちから率直な声を聞いたという積み重ねはある。実際、「大人の誤解」を指摘した書物は他にほとんどない。

 小森さんは言う。

「先生方は、けんか両成敗のことを『伝統芸能』と言っていました。先輩たちから教えられて同僚みんながやっている、疑問を持ったことがなかった、と」

 小森さんが「大人の誤解」として紹介している例は、教育現場では「正しい」と信じられていたことばかりだ。「いじめを見たのに、見て見ぬふりをして何もしなかったら、いじめをしているのと一緒」という考え方もその1つだという。傍観者も加害者。それは半ば常識とされてきた。

 しかし、小森さんによると、それは間違っている。

「大人から傍観者と呼ばれている子どもたちは、友達を救えないことに苦しんでいます。『傍観者も加害者と同じだ』と大人が非難するのは、その子どもたちを二重に苦しめています。大人だって、自分が次の標的になるかもしれない場合、声を上げられる人はどのくらいいるでしょうか」