カタールによるハマス支援を支持していたネタニヤフ首相

井上:イスラエルにとっても、ガザをハマスに支配させて、西岸の自治政府と対抗させておく状況は、パレスチナ国家の樹立を妨げパレスチナをイスラエルが統御する上で都合がよく、ガザ統治のコストも削減できるので、イスラエルはあえてずっと容認してきました。

 ただ、ハマスがあまり強くなるのはまずいので、その勢力が拡大すると攻撃し、勢力を弱体化させるものの、ハマスがガザを支配するのに必要な力は残してやる──という対応をとってきました。

 こうしたイスラエルの戦略は「芝刈り」と呼ばれています。芝が伸び過ぎると刈るけれど、根絶やしにはしない。イスラエルとハマスは、ある意味では持ちつ持たれつの共犯関係でやってきたのです。

 カタールがハマスに資金援助を続けてきましたが、表面上、イスラエル政府はカタールを非難してきました。ただ、最近分かったことは、ハマスを存続させるため、ネタニヤフ首相がカタールの資金援助を支持していたということです。

 パレスチナを分断させておけば、イスラエルとパレスチナ間の二国家解決(両国が互いの領土と生存を認めて平和的に国を分けること)を避けることができるのです。

──「ハマスは思想であり、ハマスを殲滅することはできない」と書かれています。

井上:ハマスという言葉は「イスラム抵抗運動」を意味するアラビア語の頭文字をとった略語で、運動の理念を表したもの。イスラエルのガザ侵攻に対する怒りは、パレスチナ人はもとより、膨大なアラブ人口の中に蓄積されています。

 現在の武装組織としてのハマスが殲滅されたとしても、この抵抗運動の思想は、パレスチナ人やそれを支持するアラブ人によって継承され、第二、第三のハマスが生まれるでしょう。

 パレスチナにいるパレスチナ人の人口は約520万人です。国外に出たパレスチナ難民も約560万人います。イスラエルの人口は約1000万人ですが、ユダヤ人人口は73%で、20%(約170万人)ほどはアラブ人です。アラブ世界はパレスチナの外にもあります。

 今のパレスチナ、アラブ世界の子どもたちも、いずれハマスの思想に共鳴して新たな武装抵抗に加担する可能性は十分ある。あるいは、国外に脱出した人々がテロリストになり、海外のユダヤ人やイスラエル関連施設を攻撃する可能性もあります。

 そうした展開を避けるためには、ハマスのようなテロ組織、あるいはその予備軍を、非暴力的な政治的プロセスで活動する団体に転化していく必要があります。

 だからこそ、ガザと西岸の分断統治をやめ、パレスチナを統一的に統治するパレスチナ国家を樹立させ、イスラエルという国家と相互承認して共存する「二国家解決」が必要です。

 パレスチナ国家が樹立されイスラエルとの平和共存が確保されるなら、テロ集団としてのハマスは存在理由を失います。今のハマスはイスラエルと武力闘争しているだけでなく、ガザ住民をも恐怖政治的に支配しています。