ガザ北部の無人化を推し進める戦闘方法

井上:イスラエル軍がガザ北部を制圧したことで、ハマスはそこからいったん逃げました。そうなると、制圧者の責任として、イスラエルは制圧した土地に十分な兵力を配置して、ハマスの再侵攻を排除し、破壊された地域の治安維持と復興を通して住民を保護しなければなりません。

 ところが、イスラエル軍はそうしたことをせず、制圧後、わずかな監視兵だけを残して退却するのです。すると、やがてハマスが戻ってきますから、再び乗り出していって攻撃する。ハマスがいわゆる「ヒット&ラン戦略」を取ることをイスラエルはわざと許しているように見えます。

 これは軍事的には不合理な戦闘方式ですが、イスラエルの狙いがガザ北部で戦闘を終わらせるのではなく、むしろ持続させて民間人の居住を不可能にすることにあるとしたら、理解可能です。

 ガザには約200万人が住んでいて、南と北のエリアにそれぞれ約100万人ずつ居住していました。戦闘によって北部の住民の多くは南部に避難しましたが、それでも2024年末でまだ40万人もの住民が残っていました。

 ネタニヤフ政権は残存住民への食糧や水の供給を制限していますが、戦闘を継続させることによって、ここに留まっていると生命の危険があることを思い知らせて、住民を全部追い出して、北部を完全に無人化しようとしているとする見方が強まっています。

 なぜ無人化したいのかと言えば、将来、西岸地域だけでなく、ガザにもイスラエル人を入植させるためです。

 実際、ネタニヤフ政権の連立パートナーである極右政党の党首イタマル・ベングビール氏は、ガザをイスラエルが統治し入植者を送ることを公然と要求しています。これでは、イスラエルのガザ侵攻はもはや自衛戦争とは言えない。パレスチナの土地を略奪する侵略戦争です。

イスラエル人入植者による襲撃受けたパレスチナ人男性(写真:ロイター/アフロ)イスラエル人入植者による襲撃を受けたパレスチナ人男性(写真:ロイター/アフロ)

──ハマスとイスラエルの「意図された政治的共犯関係」について書かれています。

井上:パレスチナは、ガザとヨルダン川西岸に分かれています。西岸はPLO(パレスチナ解放機構)から行政機能を引き継いだ「パレスチナ自治政府(Palestinian Authority)」が統治しています。かつて選挙をして、ハマスが勝ちましたが、自治政府がハマスの統治を認めなかったので、パレスチナは分断された状態が続いています。

 被支配者を分裂させていがみ合わせると統治しやすくなるので、「分割統治(Divide and rule)」という手法はかつての大英帝国も取ってきました。