ロシアによるNATO攻撃があり得る怖い展開
──2月末に、ホワイトハウスでトランプ大統領とゼレンスキー大統領が口論になったときに、トランプ大統領が「第三次世界大戦に発展する可能性」を連呼していましたが、彼には恐らくそうした理解はないのですね。
井上:西側諸国の参戦がありうるとしたら、それはNATO加盟国をロシアが攻撃した場合です。
たとえば、ポーランドはウクライナへの武器支援の重要なポイントですが、ここをロシアが攻撃するようなことがあれば、集団的自衛権でNATOが参戦することもあり得ます。
通常兵器においてNATOはロシアに対して圧倒的に有利で、そんな攻撃を仕掛けるのはロシアにとって自殺行為ですから、プーチン大統領はそこまで愚かではないと思います。
ウクライナ侵攻以来、プーチン大統領はたびたび西側諸国に脅しをかけていますが、単なるブラフの域を出ていません。実際、プーチン大統領はこれまでNATO加盟国を攻撃したことはありません。
彼が餌食にするのは弱小とみなした相手だけで、自分も致命傷を負いそうな本当に強い相手とまともに喧嘩する気はありません。
ただ、NATOが分裂弱体化し、集団的自衛権を実効的に行使できず、ロシアを罰する力をもはやもたないとプーチン大統領が信じるような状況になれば、彼がそのような攻撃を仕掛ける可能性もあります。今、恐いのはそのような展開です。トランプ大統領が欧米の関係にまたヒビを入れている。
ロシアの再侵攻を西側が実効的に抑止する保証を与えることを条件に、領土問題では妥協する用意があることをウクライナは示しているのに、プーチン大統領はウクライナを傀儡国家化できる無条件降伏以外は認めないという高圧的な姿勢を取り続けています。
トランプ大統領が本当に停戦を実現したいのであれば、圧力をかけるべき相手はロシアです。
既にロシアは軍事的にも経済的にも消耗しており、攻勢を長期間続ける余裕はありません。トランプ大統領はディールの天才を標榜するなら、ロシアのこの足元に付け込んで圧力をかけるべきなのに、それができず、逆にウクライナに支援停止の圧力をかけて、プーチン大統領の高圧的姿勢を強化させています。
それに加えて、関税戦争で西側同盟国との対決的姿勢を強め、NATOを再び分裂弱化させてプーチン大統領をつけあがらせています。
──トランプ大統領という存在は、プーチン大統領にとって都合がいいですね。
井上:トランプ大統領は、プーチン大統領に手玉にとられているだけでなく、国際社会からも「口先だけで実際は政治的交渉能力のない男」とみなされていることに自分では気づいていません。トランプ第二政権ではイエスマンばかり集めたので、誰も彼に気付かせようとはしません。
ここで、ノーム・チョムスキー氏の問題に移ります。