広がる「ボールパーク化」

 スタジアムとまちづくりの関係を歴史で紐解くと、かつて日本のプロ野球オーナー企業に多かった鉄道会社が、スタジアムは沿線開発の集客コンテンツとして建設を進めた事例がある。また、スタジアム周辺では、東京ドームやかつての阪神甲子園球場のように遊園地を隣接して建設するなど、球場が周辺施設と一体となってにぎわいを創出してきたことは昔からあった。

 一方、アメリカでは1990年代から、球場内でスポーツ観戦以外にも、飲食空間を充実させたり、子どもの遊び場やショーなどイベントを実施したりすることによって、スタジアム全体にエンターテインメント空間を創出したスタジアムのボールパーク化が進んだ。応援しているチームの試合の勝敗にかかわらずファンが滞在時間を楽しむことができることで、スタジアム内での消費も促す効果が期待できる。

 プロ野球広島の本拠地、マツダスタジアム(広島市)の設計に関わった日本女子体育大の上林功教授(スポーツマネジメント)によると、日本国内のボールパーク化は、プロ野球ロッテの本拠地・千葉マリンスタジアム(現ZOZOマリンスタジアム)や、05年にプロ野球に新規参入した楽天が大幅改修をした当時の宮城球場(現楽天モバイルパーク宮城)が先鞭をつけた。

 ただし、当時は前述の通り、試合の日に球場へ足を運んだファンがあくまで球場の中でより長く滞在時間を楽しめることに重点を置いた。いわば「勝てなくても足を運びたくなるボールパーク」がコンセプトだったのに対し、近年は「試合がなくても足を運びたくなるボールパーク」へとシフトしてきた。

 上林氏は試合がない日のスタジアムやアリーナを、地域のシンボル的な神社やお寺に例える。「神社やお寺の夏祭りや盆踊りなども1年中、開催されているわけではない。それでも、寺社仏閣を中心とし、周辺には飲食店や土産物店が立ち並び、お祭りがないときにも人が集まる観光名所となっている。イベントがなくても人が集まる場所になる構図は、まさに試合がない日のスタジアムやアリーナ周辺に人が集まるのと同じ」と解説する。

 25年4月には、神戸市のJR三宮駅から徒歩圏内にB2の神戸ストークスの本拠地となる「ジーライオンアリーナ神戸」が開業し、今後も各地で、まちのシンボル的なスタジアムやアリーナが誕生していく。上林氏は「エスコンフィールドが新たなまちをつくっていったのに対し、まちなかのスタジアムやアリーナはすでに存在しているまちにスポーツ施設が溶け込み、都市のにぎわいの創出に寄与していくケースだ」と話す。