Twitterを自分の遊び場にしたい

 ほかの会社と同じようにツイッターについても、権限を委譲する気がマスクにないのは間違いない。1カ月後、結論は出たかとベイクポールに問い合わせてみた。

「戻ったとしてなにをするのかが見えないんですよね。イーロンは、エンジニアリングや製品について、自分が直接、好きなように舵を取りたいと思っていますから」

 さしあたって、ツイッターの経営を急いでだれかに任せるつもりはマスクにない。オンラインでアンケートを取り、そうすべきだという意見が過半数という結果を得ていても、だ。最高財務責任者さえおいていない。自分の遊び場にしたいのだ。

 マスクは直属の部下が多い。スペースXに15人以上、テスラに20人ほどもいる。ツイッターでは、20人以上も直属を配するつもりだと語っている。そして、直属の部下と中核技術者は、全員、ぶち抜きになっている10階のオープンなところで仕事をしろ、日夜、自分が直接指揮をとるからと宣言した。(了)

ウォルター・アイザックソン
1952年生まれ。ジャーナリスト、伝記作家。ハーバード大学を経て、オックスフォード大学にて学位を取得。米国『TIME』誌編集長、CNNのCEO、アスペン研究所CEOを歴任。主な著作に、世界的ベストセラーとなった『スティーブ・ジョブズ』(講談社)、ノーベル賞を受賞した科学者ジェニファー・ダウドナの伝記『コード・ブレーカー』、『レオナルド・ダ・ヴィンチ』(ともに文藝春秋)など。現在はトゥレーン大学教授。ニューオーリンズに妻とふたりで暮らす。

井口耕二(いのくち・こうじ)
翻訳者(出版・実務)
1959年生まれ。東京大学工学部を卒業後、米国オハイオ州立大学大学院修士課程を修了。大手石油会社を経て、98年に技術・実務翻訳者として独立。かつてはフィギュアスケートの選手(シングル、アイスダンス)で、現在は自転車ロードレースにはまっている。訳書に『イーロン・マスク』上下(文藝春秋、2023年)、『Breaking Twitter──イーロン・マスク 史上最悪の企業買収』(ダイヤモンド社、2025年)、『スティーブ・ジョブズ』I、II(講談社、2011年)、『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』(日経BP社、2010年)、『PIXAR』(文響社、2019年)、『ジェフ・ベゾス』(日経BP社、2022年)など。著書に『「スティーブ・ジョブズ」翻訳者の仕事部屋 フリーランスが訳し、働き、食うための実務的アイデア』(講談社、2024年)などがある。