3.欧米の分断でロシアの脅威は大西洋へ

 ゼレンスキー氏に恩を着せるトランプ氏の態度を観察すると、ウクライナ戦争のことを局地的に限定される戦争だと思い込んでいるようだ。

 トランプ氏のこの考えは誤りである。

 トランプ氏がこのような態度を採るのは、米国が何によって、誰によって守られているのかについて認識がなく、米国は他国の協力を得なくても「どの国からも侵攻を受けることのない安全な国」という誤った認識が根底にあるからであろう。

 米国とロシア間の交渉の行方によっては、米国と欧州がお互いに不信感を抱き、分断が現実になるかもしれない。

 そして、米国がNATO(北大西洋条約機構)から脱退して米軍が欧州から去れば、欧州の軍事力は著しく低下することは明らかだ。

 私は、「ウクライナが弱体化し米軍が欧州から去れば、いずれ世界のパワーバランスが崩れ、ロシアと中国の脅威が米国を囲む大西洋・太平洋に及ぶことを、米国は予測していない」のではないかと危惧している。

図2 ロシアの脅威が大西洋に進む(イメージ)

出典:グーグルアース地図を要図にして、筆者が脅威の流れを書き込んだもの

 それでは、欧米の分断によって欧州が弱体化し、ロシアの軍事力がウクライナ戦争の教訓と中国の支援を得て増強されればどうなるのか。

 まず、図2のようにロシア軍が抵抗ライン2まで進むことになれば、ウクライナ戦争でほとんど消耗していないロシア海軍が、将来大西洋に進出することになる。

 そして、ロシア海軍が大西洋に進出すれば、そこで米国海軍とロシア海軍が衝突することになる。

 このような状況になれば、米国は自国だけで対峙するしかない。大西洋・太平洋は、現代戦では、大きな障壁にはならない。

 米国は、地政学的に見れば、侵攻を阻止する障壁がない2つの大洋に囲まれた孤立した国である。

 米国を脅かす脅威が、大西洋や太平洋から接近してくれば、止めるために協力してくれる国は「ない」のである。

 米国が欧州から離れれば、大西洋から米国に攻め入る国に対して、欧州は協力しなくなるであろう。