「模倣こそが進化を生む」

高橋:僕は「模倣こそが進化をうむ」と考えているんです。ゼロイチ(注:何もないところから何かを生み出すこと)なんてそう簡単にできませんが、マネなら誰にでもできる。マネだけではつまらないので、そこに一工夫を加えると、もっとうまくいく。それをまた誰かがマネる。

 リクルートにはマネるやつを褒める文化がありました。「マネ」はダサいので「パクる」と言い換えて、「徹底的にパクる」略して「TTP」を奨励してました。

『起業の天才!』にも出てきますが、かつてのリクルートには組織表がなくて、その代わりに全社員を網羅した分厚い内線番号帳というのが全員に配られていました。そして週報や社内報の記事の下に、その人の内線番号(連絡先)が記載してある。

 僕が大阪の『住宅情報』で表彰を受けると、たとえば福岡の営業の人から「高橋さんのマネをしたいんですが、ここのところはどうすればいいですか?」と問い合わせが来たりするんです。「芸事は真似事」という言葉がありますが、ビジネスもまずは成功事例の模倣からです。

 GAFA(注:グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)のビジネスは、どれも最初に考えた会社は他にあって、それをマネしてより良くした者が進化して生き残った。

 マネは誰にでもできますから、肝心なのは「徹底さとスピード」です。

 中期計画とかでのんびりマネても意味がない。終身雇用が前提の大企業の人たちは40年のスパンで前例主義的にゆっくりとものを考えがちでしたが、入社の時から「3年で辞めよう」と思っていた当時のリクルートの社員は、常に「明日どうしようか」と目先のことに集中していた。

 立派なビジョンも必要かもしれませんが、まずは目先の売り上げです。僕は今、たくさんのスタートアップ企業にアドバイスさせてもらっていますが、日本のベンチャーに必要なのは、このアニマル・スピリッツだと思います。

大西:順調にキャリアを重ねてきた高橋さんですが、入社7年目の1988年にリクルート事件に遭遇します。創業者の江副浩正氏が政官財の大物に、関係会社リクルートコスモスの未公開株を配り、上場後の値上がり分が賄賂とみなされた贈収賄事件です。

高橋:事件が発覚する直前の4月にマネジャーに昇格し、結婚もして、みんなに「おめでとう」と言われてご機嫌だったのに、いきなりリクルートという会社が世の中から全否定されてしまってびっくりでした。

大西:今のフジテレビみたいに、クライアントが逃げたんですよね。

高橋:鉄道とか銀行とか、お堅いところはね。でも、ほとんどの民間企業は「君は悪くないし、リクルートの情報誌は世の中に必要なメディアなんだから、頑張れ」と励ましてくれました。

 リクルートの情報誌がなければ求人も、自分たちのサービスや商品を世間に知らしめることもできなかった地方の中堅中小企業の多くはリクルートのファンだったのです。先ほどの教科書の話のように、接点が多いので簡単には引き離せないのです。

 実は事件翌年、好景気とはいえ前年売り上げを上回る結果となりました。