同様にドイツでも、「全ての民族は同じ」という考え方は、戦後、表面的に受け入れられてきたに過ぎないという。そうすることで、第二次世界大戦における自らの人種差別的な残虐行為を忘れることができるからだというのである。

新しい世界秩序を理解する上での必読書

 そして、日本にとっての最大の問いは、「日本は敗北する西洋の一部なのか?」である。これからの日本はドイツと同じく、NATOが崩壊することでアメリカの支配下から解放される一方で、韓国と共に中国と独力で向き合わなければならない。

 一方で、「西洋の敗北」は、日本が独自の存在としての自らのあり方について考え始める良いきっかけになるだけでなく、日本がアメリカ、イギリス、フランスといったネオリベラルの極西洋と「その他の世界」の仲介役として自らを位置付けるチャンスでもあるというのが、トッドから我々へのアドバイスである。

 なぜ民主主義と自由主義の国アメリカにおいてトランプ大統領が再選を果たしたのか、なぜ先進国で既成政党やリベラルが惨敗し、なぜヨーロッパでは「極右」政党が躍進するのか、多極化する世界はどこに向かうのか、そしてその中で日本はどのように自らの立ち位置を定めるのか・・・本書はこれからの新しい世界秩序を理解する上での必読書である。

(参考図書)
『帝国以降』エマニュエル・トッド
『第三次世界大戦はもう始まっている』エマニュエル・トッド
『文明の衝突』サミュエル・ハンチントン
『西洋の自死』ダグラス・マレー
『大転換』ピーター・ゼイハン
『オリエンタリズム』エドワード・サイード
『リオリエント』アンドレ・グンダー・フランク
『ヒルビリー・エレジー』J・D・ヴァンス

堀内 勉(ほりうち・つとむ)
1960年東京生まれ、東京育ち。東京大学、ハーバード大学大学院卒。資本主義の教養学公開講座を主催し、資本主義研究を進める傍ら、邦銀、外資系証券を経て大手不動産会社で経営に携わった経験を基に、現在、多摩大学大学院、青山大学大学院で教鞭をとる。趣味は料理、ワイン、漆器収集、読書で、軽井沢でワインバーも経営している。読書はノンフィクション中心で、ジャンルは経済から哲学・思想、歴史、科学、芸術、料理まで、知的興味をそそるものであれば何でも。
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各界の読書家が「いま読むべき1冊」を紹介!—『Hon Zuki !』始まります

(堀内 勉:多摩大学大学院教授 多摩大学サステナビリティ経営研究所所長)

 この度、読書好きの同志と共に、JBpress内に新書評ページ『Hon Zuki !』を立ち上げることになりました。

 この名前を見て、ムムッと思われた方もいるでしょうが、まさにお察しの通りです。2024年9月に廃止になった『HONZ』のレビュアーだった私が、色々な出版社から、「なんで止めちゃうんですか? もったいないですよ!」と散々言われ、「確かにそうだよな」と思ったのが構想のスタートです。

 私、個人的に「読書家の会」なる謎の会を主催していて、ただ定期的に読書家が集まって方向感もなくひたすら本の話をしています。参加資格は本好きな人という以外特になくて、私がこの人の話を聞いてみたいと思える人というかなり恣意的なのですが、本サイトの基本精神もそんな感じにしたいと思っています。

 簡単に言えば、本好きという自らの嗜好に引っ張られ、書かずにはいられないという内なる衝動を文章にしたサイトというイメージです。もっと難しく言えば、カントの定言命令のように、書評を書くことを何かの手段として使うのではなくて、書評を書くことそれ自体が目的であるような、熱量の高いサイトにしたいということです。

 それでまずオリジナルメンバーとしてお声がけしたのが、『HONZ』の名物レビュアーだった仲野徹先生と『LISTEN』の発掘で一躍本の世界の中心に躍り出た篠田真貴子さんです。まあ、本好きという共通点を持ったタイプの違う3人と思って頂ければ結構です。

 ジャンルとしては、基本はノンフィクションで、新刊かどうかは問いませんが、できるだけ時事問題の参考になるものというイメージです。レビュアーの方々には、とりあえず3カ月に一回くらいは書いて下さいねとお願いしています。

 少し軌道に乗ったら、リアルでの公開講演会とかYouTube動画配信とかもやっていきたいと思っています。出版社の方々とも積極的に連携していきたいと思っていますので、宜しくお願い致します。

(堀内 勉:多摩大学大学院教授 多摩大学サステナビリティ経営研究所所長)