レイラの監督であるマルヤムもまた、彼女に政府の命令に従うよう説得する。政治的な都合で選手の夢が潰されることがあってはならないと最初は憤っていた監督も選手時代に同様の状況に巻き込まれて、棄権していた。抵抗しても無駄。

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 それでもレイラは諦めない。

 すぐに家族に危険を知らせ、夫と息子は国境に向かうが、両親はあっという間に政府側に拘束されてしまう。

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 大会が進行するなか、彼女たちの異変に世界柔道協会(WJA)のスタッフが気づく。

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映画に関わったイラン出身スタッフは亡命、文字通り人生を賭けた作品

 監督のマルヤムを演じているのはザーラ・アミール。彼女はイランのスター女優でありながら、リベンジポルノが流出し、被害者であるにもかかわらず罪に問われて亡命を余儀なくされた。現在はフランスを中心に活躍し、世界で影響力のあるオピニオンリーダーの1人として、2022年にBBCの「100人の女性」に選ばれている。

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 イスラエルにルーツを持つガイ・ナッティヴ監督は元々彼女に出演を依頼していたが、キャスティングや制作にも携わり、最終的には共同監督に。イスラエルとイラン出身の監督が協働することは映画史上初となる。

 2人は「この芸術的で映画的な合作が、盲目的な憎しみや相互破壊の狂乱を超えて、未来を共に築こうとする、アーティストやアスリート、そしてすべての人々への尊敬の印を込めた贈り物となりますように」と声明を発表している。

 戦う相手が目の前にいる見える相手だけではないという恐怖。一緒に戦ってきたはずの監督さえ信じられない状況で決勝戦が刻一刻と迫る。果たしてレイラが下す決断は……。

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 アスリートだけでなく、アーティストも表現が規制され、命を脅かされ、国を後にしているイラン。現在、公開中の『聖なるイチヂクの種』もマフサ・アミニ事件を扱ったサスペンススリラー。監督のモハマド・ラスロフもやはり、数々の有罪判決を受けた後、イランを脱出した。

 イランでは映画も厳しく検閲される。『TATAMI』も秘匿状態で撮影、映画に関わったイラン出身者は亡命。イランの女性にエールを送る内容でありながら、イランでは上映されない。

『TATAMI』

2月28日(金)より新宿ピカデリーほか全国順次公開

配給:ミモザフィルムズ